ワクチンを接種しても麻疹にかかる?

 麻疹(はしか)は、非常に感染力の強い病気です。1人の麻疹患者から12~18人に感染が広がるとされています。これは、基本再生産数と呼ばれ、感染力の強さを示す数値です。インフルエンザの基本再生産数が1~3ですから、麻疹の感染力の強さが分かります。1人から18人が感染し、その18人がさらに18人ずつに感染させるわけです。このサイクルを4回繰り返すだけで感染者は10万人を超えます。

 麻疹は発症しても治療法がありません。ワクチン接種が唯一の対策で、1歳時に麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を接種し、さらに年長さんでもう1回接種することになっています。2回接種は2006年から導入されていますので、現在、ほとんどの子どもはMRワクチンを2回接種しているはずです。

 基本再生産数は、ワクチンがない状態での感染力をあらわします。多くの子どもがMRワクチンを接種して免疫を持っているなら、麻疹の感染の広がりは抑えられることが期待できます。残念ながら、ワクチンを接種しても、麻疹に感染する確率をゼロにすることはできませんが、ワクチンの効果が絶大であることに疑いはありません。

 ここでは、いくつかの論文を元に、ワクチン接種の効果をみていきます。麻疹の一般的な解説については、別記事「麻疹(はしか)」をご覧下さい。

MRワクチンが行き渡った現代では、接触者が麻疹を発症する確率は低い

 大阪で2018年11月~2019年3月に届出があった麻疹のデータをまとめた報告[1]によると、発端となった麻疹患者との接触者が麻疹を発症する確率は0.73%でした。届出された麻疹患者が105人いて、保健所の調査で同定された接触者が合計9,846人で、そのうち、発症した人が72人。72/9846=0.73%という計算です。この報告では、発端者の半数以上は成人であり、学校に限った感染ではありません。

 学校という状況に限るとどうでしょうか?2004年に山形県内の中学校で麻疹の流行がありました[2]。全校生徒429人のうち28人が発症しており、接触者の発症率は6.5%でした。教室という閉鎖空間で長い時間にわたって生活を共にし、さらに部活などの活動を通じた接触もあるため、学校という環境では、感染しやすいことが分かります。それでも、ワクチンの効果は明らかで、ワクチン接種歴が1回もなかった生徒32人中10人が発症(発症率31.3%)したのに対して、1回もしくは2回のワクチン接種をしている生徒377人で発症したのが18人(発症率4.8%)でした。

 MRワクチンが行き渡っている社会においては、麻疹の広がりが相当抑えられることが分かります。

ワクチン接種歴のある人は、麻疹になっても、他人には感染させにくい

 麻疹ワクチン接種済みで麻疹を発症した109人のデータを解析した論文(メタ解析[3])によると、その接触者のうち麻疹がうつってしまったのは23人でした。つまり、ワクチンの接種歴のある人が麻疹にかかると、平均して0.21人くらいに感染を広げるという計算になります。この論文では、さらに統計学的な処理を加え、ワクチン接種歴のある麻疹患者の実効再生産数は0.063(信頼区間0.0~0.5)としています。

 ワクチン接種歴がある人は、ある程度の免疫を有しているので、麻疹ウイルスが増えにくく、感染を広げにくいのです。また、私自身の診療経験でも、ワクチン接種歴のある子どもは、麻疹にかかってもほとんどの場合、軽い症状で治ります。

 前項でとりあげた大阪の報告[1]でも、発端となった麻疹患者にワクチン接種歴があったり、症状が軽い(発熱・発疹・カタル症状の3つの主要兆候がそろわない)場合は、感染を広げる確率はさらに減るというデータが示されています。

無症状でも、密かに感染していることがある

 ワクチン接種済みの人が麻疹患者と接触すると、症状が出なくても、実は感染していた、ということがあり得ます。症状がないけれど、血液検査で感染の証拠があった場合で、不顕性感染とよびます。接触直後と、流行収束後で、麻疹ウイルスに対する抗体価が上昇していれば、密かに感染していたと分かります。30年以上前、麻疹が一般的に流行していた時代は、知らず知らずのうちに麻疹ウイルスに曝露して、その都度、免疫が強化されていました。それと同じことなのでしょう。

 気になる不顕性感染の頻度ですが、オランダの報告[4]で23%セネガルの報告[5]で45%と、かなりの頻度です。麻疹との接触者に、症状がなくてもPCR検査をすれば、最大で50%弱の人が陽性となる可能性があると言えます。

 麻疹との接触者で、一般的な潜伏期間とされる8~12日後に37度台の熱が出て、翌日には下がってその後は元気、なんていう人がいます。症状からは全く麻疹らしくありません。これも広い意味で不顕性感染でしょう。この程度の症状の人でも、PCR検査をすれば、陽性となって、麻疹と診断されることとなります。すでに解説したとおり、このような無症状あるいは軽症の人が、さらに麻疹を広げる確率は極めて低いと思われます。

まとめ

 日本国内では土着の麻疹ウイルスは排除されていますが、グローバル化が進む現在、海外からの持ち込みを避けることはできません。麻疹の感染拡大を防ぐためには、多くの人がMRワクチン接種を行うことが重要です。ワクチン接種歴があれば、万が一、麻疹に感染しても軽症で済みますし、他人に感染させる確率はかなり低いです。

 感染症法で全数報告が義務づけられているため、接触者となった人には軽症でもPCR検査を行うことがあります。不顕性感染も多く、PCR検査の結果解釈には注意が必要です。いたずらに不安や差別をあおることのないよう、冷静な対処が求められます。

引用文献

  • [1] Takahashi Y, et al. Risk factors associated with secondary measles transmission in index cases. J Epidemiol 2026. doi: 10.2188/jea.JE20250293
  • [2] Mizuta K, et al. An outbreak of measles virus infection due to genotype D9 at a junior hight school in Yamagata, Japan in 2004. Jpn J Infect Dis 2005;58:98
  • [3] Tranter I, et al. Onward virus transmission after measles secondary vaccination failure. Emerging Infectious Diseases 2024;30:1747
  • [4] Woudenberg T, et al. Additional evidence on serological correlates of protection against measles: an observational cohort study among once vaccinated children exposed to measles. Vaccines 2019;7:158
  • [5] Whittle HC, et al. Effect of subclinical infection on maintaining immunity against measles in vaccinated children in West Africa. Lancet 1999;353:98

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