寝る子は育つ~子どもにとって睡眠が大切な科学的理由

 子どもに確保すべき睡眠時間は、年齢によって異なります。1~2歳児は11~14時間、3~5歳児は10~13時間、小学生は9~12時間、中学生・高校生でも最低8時間の睡眠が必要です(米国睡眠医学会)。日本人は、おとなも子どもも、圧倒的に睡眠不足であり、世界平均に比べて1時間ほど睡眠時間が短いようです。

 「寝る子は育つ」ということわざの通り、良い睡眠が、子どもの心身の発育に非常に重要であることは、昔から知られていました。最近の研究で、このことわざが正しいことが、科学的にも証明されてきています。睡眠は脳の成長に必要不可欠です。成長期の子どもにとって、質の高い睡眠を得ることは何よりも優先されるべきことと言えます。ここでは、最近の研究の成果に基づいて、子どもの睡眠の質を高めるための原則を解説します。

脳は睡眠中に成長する

 記憶は、脳の大切な役割です。記憶といっても、単純な知識を記憶することを指すわけではありません。手先が器用になるとか、スポーツが上達するといったことも、運動を担当する脳の領域が、体の動きを記憶することで、実現します。脳の記憶の基盤は、神経細胞ネットワークです。神経細胞どうしがたくさんつながればつながるほど、脳は成長し、知能も運動能力もレベルアップします。

 コンピュータシミュレーションを用いた研究で、神経細胞のネットワークは、睡眠中に強化されることが示されています。熟睡中(ノンレム睡眠)に、新しい神経細胞のネットワークが作られ、浅い眠り(レム睡眠)の間に、神経細胞のネットワークが取捨選択されています。

 脳は、睡眠のたびに成長し、進化しているのです。このことから、脳が急激な成長を遂げる赤ちゃんと子どもにとって、睡眠が非常に重要であることが分かります。

脳は昼間の疲れ具合を記憶して、眠気を調整する

 日中にたくさん活動して疲れた時はよく眠れる、という事実は誰もが経験的に知っています。最近の研究で、脳の神経細胞の中に、実際に日中の疲れが記録され、それが眠気を引き起こす仕組みがあることが分かってきました。

 神経細胞どうしは電気を出すことで連絡を取り合って活動しています。神経細胞の外から中に、カルシウムが流れ込むと、電気が発生し、同時にリン酸化酵素がタンパク質に作用して、いろいろな情報を伝達します。神経細胞の中にあるカムカイネースIIというリン酸化酵素は、活動すると自分自身をリン酸化し、活動の記録を残します。この活動の記録がある程度たまってくると眠くなるらしいのです。脳の神経細胞がたくさん活動して疲れるほど、眠気が強くなっていくわけです。

 疲れがたまってはじめて眠くなる仕組みを、脳の神経細胞のひとつひとつが持っています。このことから、良い睡眠を得るには、早起きして、日中にしっかり活動して、ほどよい疲労を感じる必要があることが分かります。

乳幼児期:8時に就寝、10時に熟睡、成長ホルモンをたっぷり出そう!

 乳幼児期は、脳が急激に成長する時期です。脳の成長には、睡眠が不可欠です。5歳までの間、適切な睡眠をとることが、子どもの脳がうまく成長するかどうかを決めます。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、1日の半分以上を寝て過ごし、お腹が減ったら泣き出してミルクを与えられるのを待つだけ、という非常にか弱い生き物です。それが、4ヶ月頃には首が据わり、7ヶ月になると座れるようになり、10ヶ月頃にはつかまり立ちができるようになり、1歳を過ぎると歩き出すという、急激な成長を遂げます。言葉を話し、手や足の動きも器用になって、絵を描いたり、ボールを蹴ったりするなど、複雑なことができるようになります。人間の脳になる無数の神経細胞どうしが、どんどんつながってネットワークを作っていくことで、脳が成長するのです。

 脳の成長には、熟睡中(ノンレム睡眠)に分泌される成長ホルモンが非常に重要であり、午後10時から午前2時に最も多くの成長ホルモンが分泌されます。午後10時に熟睡しているためには、8時には床に就けるようにする必要があります。5歳までは、夜8時に寝る生活を徹底することが最優先です。乳幼児の脳の成長に最も重要なのは、適切なタイミングで十分な睡眠をとらせることであり、習い事、お稽古事、お勉強ではありません。

 睡眠中には消化が進むので、朝ごはんも自然に食べたくなります。睡眠がしっかりとれれば、日中に体を思う存分に動かせるようになり、体も丈夫になります。日中に様々な活動ができれば、いろいろなものを見たり、聞いたり、体験したりして、五感が刺激され、ますます脳が成長します。このように、8時に寝れば、全てがうまくいくのです。

小学校高学年~中高生:早寝早起き朝ごはん、夜はスマホを使用しない!

 小学校高学年、中学生、高校生では、油断しているとすぐに遅寝の傾向になってしまいます。朝から学校があるので、起きる時間は決まってしまいますから、遅寝の習慣は、睡眠不足に直結します。結果として、朝起きられない、集中できない、イライラするようになり、成績が低下したり、暴力的になって人間関係に問題が生じます。遅寝は、諸悪の根源とさえ言えます。

 遅寝の傾向を悪化させる生活習慣には、どんなものがあると思いますか?まず、夕方以降に明るい光を浴びると、体内時計がずれていきます。夜間(特に寝る1時間前から)に明るい光を放つスマホやゲームの画面をみるのは止めましょう。また、食事のタイミングも体内時計に影響を与えます。また、朝ごはんを食べないと体内時計がずれて、遅寝を悪化させます。さらに、寝る直前に食事をとる習慣があると、睡眠が浅くなって、早起きが難しくなります。

 夏休みなどの長期休暇中や、様々な事情で不登校になってしまい、生活リズムが乱れそうになったときは、とにかく規則正しい生活をすることを心がけましょう。早寝、早起き、そして1日三食きっちり食べること。それさえできていれば、慌てる必要はありません。体の健康を維持することが、こころの健康を取り戻すベースになります。

 大久保駅前・林クリニックでは、小学校高学年~中学生、高校生を対象に、睡眠検査を行っています。朝 起きられない、日中の眠気やだるさが強い、集中力が低下している、などの症状がある方に、睡眠検査をおすすめします。
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睡眠を改善するヒント

お風呂は、寝る1時間前までにすませる

 眠気は、体温と関連があり、体温が高いと眠気は弱くなります。眠いときにお風呂に入ると頭がすっきりするのは、誰もが経験しているでしょう。入浴直後に寝ようと思っても、眠れない可能性が高いです。お風呂で体温が上がったあと、体温が下がってくるタイミングで眠気が強くなります。

授業の合間や昼休みに10分くらい仮眠をとる

 学校から帰ったあと、夕方に眠くなる中高生は多いと思います。夕方に居眠りをすると、本来の就寝時刻に眠くならず、睡眠不足につながります。夕方に眠くなる人は、12時~15時の間に、10分~15分くらいの仮眠をとると良いでしょう。授業の合間の中休みや、昼休みに、ちょっとウトウトするくらいなら、気づいたら1時間寝てしまった、などということもないでしょう。1日のリズムを崩さずに睡眠不足を補うことがポイントです。

朝は日光を浴びて、夜は間接照明を使う

 人間の睡眠は、(1) 疲れたら眠くなる、(2) 夜になったら眠くなる、という2つのリズム(体内時計)によって調整されています。この2つのリズムが整うと、良い睡眠がとれます。したがって、昼間には、省エネモードの生活(横になる、昼寝をする)は避け、夜まで疲れをためておきましょう。また、朝には日光を目からとりこむことで、体内時計をリセットし、夜は強い光を避け、暖色系の間接照明を使用すると良いです。

寝付けないときは、寝床から出る

 床に就いてから、15分くらいたっても眠れないときは、いったん寝床から出ましょう。眠れないときに、時間を気にして時計をみたり、「早く寝なくては!」と心配したりすると、脳が覚醒して、眠気がますます薄れていきます。眠れないまま横になっていても、眠気は強くなっていきません。いったん寝床から出て、何か別のことをするのがよいです。その際には、本を読むとか、静かな音楽を聴くなど、頭が冴えてしまわないような行動をとりましょう。眠れないときに何をするか、あらかじめ考えておくと良いでしょう。

参考文献:上田泰己『脳は眠りで大進化する』(文春新書)
成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる』(PHP新書)
睡眠障害についてかかりつけ医が知っておきたいこと(日本医師会雑誌2024年8月号)

Q&Aコーナー

Q:子どもに睡眠薬は使えないのですか?

A:睡眠障害のある子どもに対する治療として、まずは生活改善を行うべきであり、安易に投薬することは適切ではありません。やむを得ない理由で薬を使う場合も、生活改善にも同時に取り組む必要があります。あくまでも、最終的には薬なしで早寝早起きができるようにするのが目標です。
 比較的安全に使用できる薬として、抗ヒスタミン薬があります。もともとは鼻水やアレルギー反応を抑える薬で、副作用として眠くなる効果があり、睡眠改善薬として使用できます。もちろん、短期的な使用にとどめるべきです。
 神経発達症(自閉スペクトラム症[ASD]や注意欠陥多動性障害[ADHD]など)の子どもでは、なかなか寝付けずに遅寝になってしまいやすいことがあります。神経発達症に伴う入眠困難に対して、メラトニン(商品名:メラトベル)を使用することもあります。投与の対象は6歳から15歳の子どもで、寝る直前に2週間ほど内服すると、寝付くまでの時間を半分に短縮する効果(治療前50分→治療後25分)があります。併用すべきでない薬もありますので、小児神経の専門医のもとでの管理が必要です。

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