マイコプラズマは、肺炎を起こす細菌です。学童から20歳くらいまでの若い人がかかりやすく、だいたい4年ごと(夏季五輪の開催年)に流行を繰り返します。最初は風邪のような症状で始まり、徐々に咳が悪化してきます。咳が長引く傾向があるものの、重症化することは少なく、自然に治ることも珍しくはありません。治療には、まずマクロライド系抗菌薬が使用されます。
マイコプラズマ肺炎は、重症化しにくいが、咳が長引きやすい
マイコプラズマは、主に学童から若者の年代に、気管支炎や肺炎を起こす細菌です。ゆっくりと症状が進んでいくことが多く、発熱、頭痛、のどの痛みから始まり、1週間くらいかけて咳が悪化してきます。咳が治まるのに、最低でも2週間、長いと4週間ほどかかります。一般的な細菌性肺炎では急激に熱や咳が悪化しますが、マイコプラズマ肺炎の患者さんは、ゴホンゴホン咳をしながら学校にも行けるくらいの元気があるのが特徴です。
潜伏期間(感染してから症状が出るまでの時間)は2~3週間と長いです。感染力は強く、同じ家庭内で生活する子どもどうしなら8割以上は感染してしまいます。感染後は獲得する免疫は長くは維持されず、何回でも感染します。感染した後も最大で4週間くらい痰や鼻水からマイコプラズマを排出することがあり、地域での流行は長引く傾向にあります。
マクロライド系抗菌薬は苦い!頑張って飲もう!
症状や地域の流行状況からマイコプラズマ感染と判断された場合、抗菌薬で治療します。抗菌薬での治療により、症状が改善するまでの日数を短くすることができます。まず最初に使われるのは、マクロライド系と呼ばれる抗菌薬です。なかでも、クラリスロマイシンやアジスロマイシンが処方されることが一般的です。
マクロライド系抗菌薬の粉薬には苦いという欠点があります。飲ませ方に工夫が必要です。抗菌薬は、気管支炎、肺炎に対する最も重要な治療薬ですので、何としても頑張って抗菌薬を飲んでもらわないといけません。粒やカプセルの薬が飲めるなら、そちらを処方します。小さいお子さんで、粉薬しか飲めない場合、大久保駅前・林クリニックでは薬剤師が飲ませ方の相談にのりますので、ご安心ください。
マクロライド系抗菌薬のもう一つの弱点は、細菌の増殖を抑える効果はあるものの、細菌を死滅させることはできないということです。マクロライド系抗菌薬を飲んでも、すぐに感染力がなくなるわけではありません。こういったところにも、マイコプラズマ感染が流行しやすい理由があります。
マイコプラズマには、安く、スピーディーに検出できる検査法がない
マイコプラズマには、コロナやインフルエンザの抗原検査のような簡便で安価に診断できる検査法がありません。痰やのどを綿棒でこすって、PCR検査でマイコプラズマの遺伝子を検出すれば、確定診断ができます。しかし、PCR検査は、特殊な機器と高額の費用を要するので、クリニックで検査するのは非現実的です。また、熱と咳がある子ども全員にPCR検査することは、医療経済を考えても不適切です。血液検査で、マイコプラズマに対するIgM抗体(感染早期に作られる抗体)、IgG抗体(回復後に作られる抗体)の抗体価を調べる方法もあります。IgM抗体は、発症から1週間しないと検出できないうえに、最長で1年くらいは検出され続けることもあり、診断精度は高くありません。IgG抗体は有用な検査ですが、発症早期と、回復後に合計2回血液検査をして、4倍以上増えていることを確認する必要があり、肺炎でつらいときにタイムリーに診断するのには不向きです。
マイコプラズマ肺炎の診断は、いろいろな状況証拠を積み上げて行います。地域で肺炎が流行しているタイミングで、子どもや若者に、1週間弱くらい熱が続き、徐々に悪化する咳があれば、マイコプラズマ感染かもしれない、と考えます。一方、鼻水や下痢はマイコプラズマ感染には認めにくい症状であり、その場合はウイルス性の呼吸器感染症の可能性が高くなります。これを踏まえた上で、レントゲンをとって肺炎像がみられれば、マイコプラズマ肺炎と考えて治療を行うことになります。
Q&Aコーナー
Q:マイコプラズマには、どのような抗菌薬が効くのですか?
A:マイコプラズマは、細胞壁を持たないという特殊な構造を持つ細菌です。そのため、細胞壁を壊して細菌を殺すタイプの抗菌薬は、マイコプラズマには効果がありません。溶連菌感染や中耳炎など、子どもに風邪症状を起こす病気に対しては、サワシリンなどのペニシリン系抗菌薬や、セフゾンやメイアクトといったβ-ラクタム系の抗菌薬が使用されますが、これはマイコプラズマには効きません。
マイコプラズマに効く抗菌薬は、細胞壁以外をターゲットにしたものになります。一つは、細菌が生存するのに必要な蛋白質を作る仕組みを妨害するタイプのものです。このタイプに該当するのは、クラリスロマイシンやアジスロマイシンといったマクロライド系抗菌薬、ミノマイシンなどのテトラサイクリン系抗菌薬です。もう一つは、DNAを複製する仕組みを妨害するタイプで、トスフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬が該当します。
Q:マクロライド系抗菌薬が効かないマイコプラズマが増えていることは、治療にどのような影響がありますか?
A:マクロライド系抗菌薬は、残念ながら耐性菌が増えてしまい、マイコプラズマには効かないことが多くなっています。マクロライド系抗菌薬は、細菌をやっつける際に、23S rRNAという蛋白質合成に不可欠な物質を標的にします。この23S rRNAが変異し、マクロライド系抗菌薬が効きにくくなってしまったマイコプラズマが増えているのです。耐性菌が増えているものの、依然としてマイコプラズマ感染症に対する治療は、マクロライド系抗菌薬が基本となります。その理由としては、(1) マクロライド耐性だからといってマイコプラズマ感染症が重症化しやすいわけではないこと、(2) マクロライドが全く効かないわけではないこと、(3) マクロライド以外の抗菌薬への耐性菌を増やす危険があること、(4) テトラサイクリン系やキノロン系抗菌薬の子どもに対する副作用の問題、があります。
なお、マクロライド耐性マイコプラズマは、日本や中国に多く、一説では80%くらいが耐性ともいわれています。本来は抗菌薬が不要なウイルス性の風邪に、マクロライドを濫用した結果と考えられます。風邪をひいた時に抗菌薬を欲しがる患者さんが時々いらっしゃいますが、抗菌薬の濫用はくれぐれも慎むべきです。