首がすわる前の赤ちゃんが、仰向けに寝ているときに顔がいつも同じ方向を向いている状態、いわゆる「向き癖」について、外来診療や乳児健診でよく質問を受けます。特に、向き癖のせいで頭の形がいびつになっていることを気にする親御さんは多いです。お座りやハイハイ、立っちができるようになって仰向けで寝ている時間が短くなってくれば、自然に頭の形は整ってきますので、心配いりません。首がすわる前の赤ちゃんが、真正面を向いて寝ていることはむしろ少ないです。顔が向いている方向と反対側から、おもちゃを見せたり、声をかけたりして遊んであげるのも良いでしょう。
頻度は多くありませんが、向き癖が、病気と関連することもあります。心配な方は、ぜひ一度、小児科でみてもらうとよいでしょう。ここでは、向き癖にまつわる医学的な問題について解説します。
向き癖が股関節脱臼の危険を高める
赤ちゃんが仰向けに寝ているときは、股関節を90度に曲げて大きく外側に開いた状態でいるのが普通です。脚が伸びていたり、立て膝になっていると、股関節が脱臼しやすくなってしまいます。向き癖があって、たとえば、顔がいつも右を向いている場合、体全体も少し右を向いてしまいます。すると左脚が外側に開かず、立て膝になりやすくなります。このため、左の股関節が脱臼しやすくなります。
向き癖があって、顔の向きと反対側の脚が十分に外側に開かない場合、顔が向いている側に、折りたたんだタオルを差し入れて、体を少し持ち上げるようにしましょう。例えば、右を向く癖があるなら、右側から頭や体の下にタオルを入れます。すると、右を向き過ぎる状態が少し軽減され、左脚が外側に開きやすくなります。
股関節脱臼は1ヶ月健診や4ヶ月健診でチェックする項目です。気になることがあれば、健診の時や外来受診時に相談してください。向き癖があっても、股関節がしっかり外側に開けば問題はありません。
単なる向き癖ではない筋性斜頸という病気
筋性斜頸とは、生まれつき、左右どちらかの胸鎖乳突筋という首の筋肉が、十分に伸びない状態となり、顔が斜めになってしまう病気で、赤ちゃんにみられます。生後2~3週くらいから、胸鎖乳突筋の筋腹に腫瘤(しこり)を触れるようになりますが、この腫瘤は一過性であり、やがて消失してしまうことが多いです。8割以上が治療せずとも1歳までに自然に治ってしまいます。痛みもありません。2~3歳くらいになっても十分に改善しない場合は、整形外科で手術をする必要があります。
筋性斜頸は、単なる向き癖とは異なります。筋性斜頸では、顔がずっと同じ方向を向いているというだけでなく、首をかしげるときのように頭が斜めになってしまうことが特徴です。気になる方は、小児科でみてもらいましょう。
筋性斜頸の原因はよく分かっていませんが、胎児期に子宮内で窮屈な姿勢でいることが関係していると言われています。すでに説明した股関節脱臼も、同様に胎児期に子宮内で脚が伸びた姿勢でいる(骨盤位、すなわち逆子だと脚が伸びた姿勢になりやすい)ことが原因の一つです。そのため、筋性斜頸と股関節脱臼は同時に起きることもあります。
向き癖があると耳あかが多くなる?
耳あかは、古くなってはがれた外耳道の皮膚、外耳道で分泌される脂や汗が混じってかたまったものです。耳あかがあること自体は正常なことです。耳あかには外耳道を保護する役割もあります。耳あかは自然に耳の入り口へと移動して外に排出されるような仕組みになっています。
向き癖のある赤ちゃんだと、いつも下になった方の耳は、中が湿って、耳あかが水分を含んで耳だれのように見えることもあります。これは、寝返りをするようになれば改善してきますので、あまり心配はいりません。
赤ちゃんの耳から、どろどろした耳だれ(医学的には耳漏といいます)が出てきたら、中耳炎かも!?と思って驚いてしまうかもしれません。子どもの耳あかが多くて心配な方、耳だれが気になるという方は、何かのついででも結構ですから、かかりつけの小児科で耳の中をチェックしてもらってください。病的な耳あか、耳だれであれば、耳鼻科へ紹介します。