学校での心電図検査

 日本では、毎年4月になると、小学1年生、中学1年生、高校1年生の全てのお子さんに、学校での検診の一環として心電図検査が行われます。運動時に不整脈を起こして突然死する病気を事前に見つけ出すのが目的で導入された検診です。その意義が認められ、世界でも導入する国が増えてきました。

 一方で、全ての子どもを対象に心電図をとることから、症状がない軽い異常も見つかることがあります。学校心臓検診の結果、病院で精密検査を受けるように言われたお子さんや親御さんの中には、不安に感じてしまう方もいらっしゃるでしょう。

 ここでは、学校心臓検診で比較的よく見つかる異常について解説します。

 精密検査は大学病院や小児専門病院で受けることが多いと思います。大久保駅前・林クリニックでも、小児循環器専門医が検査を行った上で、詳しく説明いたします。必要に応じて、胸部X線、心電図、心エコー検査、さらに24時間心電図/ホルター心電図(機械が他の患者さんで使用中でない場合)も、受診した当日に行えます。すでに他院で診察された方でも、疑問点が残っているようでしたら、どうぞ気軽に受診してください。

期外収縮

 学校心臓検診で最もよく見つかる異常が、「期外収縮」です。心臓の洞結節という場所が、一定のリズムで電気信号を出し、この電気信号が心臓全体に広がって合図を伝えることで、心臓は規則正しく血液を送り出します。ところが、洞結節以外の場所から、本来のリズムより早いタイミングで、勝手に電気信号が出されることがあります。その結果、予定よりも早いタイミングで心臓が縮んで血液が送り出されます。これが期外収縮です。電気信号が出る場所によって、「心房性(上室性)期外収縮」と「心室性期外収縮」の2種類に分類されます。

 期外収縮は多くの場合、心配無用で、治療も必要ありません。実は、ほとんど全ての人で、1日に何回かは期外収縮を起こしています。たまたま心電図検査を受けた30秒の間に、ちょうど期外収縮が起きてしまった、ということも珍しくないのです。

 要注意の期外収縮は、(1) 連発する期外収縮、 (2) 種類が2種類以上ある期外収縮、(3) 運動時など心拍数が増えたときに出現頻度が上がる期外収縮、の3パターンとなります。精密検査では、ホルター心電図検査(24時間の心電図記録)や、運動負荷試験(ルームランナーの上を走りながら心電図を記録)を行って、危険なパターンの期外収縮かどうか調べます。

不完全右脚ブロック

 不完全右脚ブロックは、心臓の右側に電気信号が伝わるのに少し時間がかかっていることをあらわしており、必ずしも病気というわけではありません。しかし、不完全右脚ブロックがあると、心房中隔欠損症という病気が隠れていることがあるため、精密検査を指示されます。

不完全右脚ブロックがあると心房中隔欠損症という病気かもしれない

 心房中隔欠損症とは、心房中隔という心臓の壁に穴があいている先天性心疾患(生まれつきの心臓病)です。穴が大きくても、症状が軽いことが多く、聴診しても心雑音が分かりにくいため、乳幼児期には発見しにくいのです。小学1年生のときの学校心臓検診で不完全右脚ブロックが見つかったことをきっかけにして、はじめて心房中隔欠損症と診断されることがあります。

 心房中隔欠損症の診断の手がかりになる心電図検査の所見として、不完全右脚ブロックのほかに、右軸偏位や孤立性陰性T波があります。このような所見が見られた場合、心房中隔欠損症かもしれないと考えて、精密検査を受けることになります。精密検査として、心エコー検査を行うと、心房中隔欠損かどうかの診断、さらに治療が必要かどうかの判断ができます。

 精密検査を指示されても、必ずしも病気があるとは限りません。右軸偏位や不完全右脚ブロックといった心電図異常は、特に病気のない方でも時々みられます。また、心房中隔欠損症と診断されても、穴が小さければ治療の必要はありません。さらに、治療が必要な場合も、急を要することはほとんどありません。まずは、しっかりと検査を受け、医師の説明を聞くようにしましょう。

QT延長

 心電図の波は、P, Q, R, S, Tという部分から成り立っています。このうち、QからTまでの時間をQT間隔といいます。QからTまでの間は、心臓に電気信号が流れて心筋が縮みはじめる瞬間から、縮んだ心筋がゆるんで元に戻るまでのタイミングに相当します。つまり、QTとは、心筋がいちばん活動しているタイミングであり、不安定な状態にあるのです。QT延長とは、QT間隔が正常よりも長くなっていることを指します。

 QT間隔が長いということは、心筋が不安定な状態にある時間が長いということです。そのため、QT延長を認める方の中には、若くして、運動時などに心室頻拍という危険な不整脈が出て、倒れてしまったり、そのまま心停止してしまう方がいます。一方で、QT延長はあっても、危険な不整脈は起こさずに年をとる方もたくさんいます。

 問題は、QT延長を認める方のうち、危険な不整脈を起こす人と、起こさない人をどう見分けるか、ということです。

 近年、研究が進んだおかげで、採血して遺伝子検査を行うことで、危険な不整脈をおこすQT延長と、そうでないQT延長をかなり明確に区別できるようになりました。

 QT延長と言われた場合は、その程度、意識消失を起こしたことがあるか、突然死した家族がいるかどうか、などを総合的に判断して、危険が高い場合に遺伝子検査に進みます。遺伝子検査で異常が確定した場合も、治療法が確立されてきていますので、医師とよく相談してください。不整脈を予防する薬を飲んだり、除細動器の植込などの治療を行います。

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