ヒトメタニューモウイルス

 ヒトメタニューモウイルス(HMPV)は、子どもの下気道感染症(≒ちょっと重い風邪)の原因となるウイルスです。2001年にオランダで発見されてから、いろいろなことが分かってきました。5歳までにほとんどの子どもが感染する、ありふれた感染症と考えられます。赤ちゃん、とくに小さな体重で生まれたり、心臓病があったりする場合は重症化することもあります。治療は、対症療法が中心となります。

子どもの下気道感染症の原因となる

 ヒトメタニューモウイルスは、子どもの下気道感染症(≒ちょっと重い風邪)の原因としてありふれたウイルスで、5歳までにほとんどの子どもが感染するといわれています。その中でも生後6ヶ月未満の赤ちゃんが感染すると重症化しやすく、痰が気道に詰まりかけて、急性細気管支炎を起こし、ゼーゼーとした苦しい呼吸になってしまうことがあります。肺炎や中耳炎を合併することもあります。ヒトメタニューモウイルスは、1回かかったことがあっても、何度でも感染する可能性があり、毎年のように流行を繰り返しています。

RSウイルスと構造も症状も似ている

 ヒトメタニューモウイルスは、RSウイルスと非常に類似した構造を持つウイルスです。症状も似ていて、どちらも、冬から春先にかけて流行し、乳幼児を中心に、下気道感染症を起こします。感染したあとに、しばらくゼーゼーしやすい状態が続く点も共通しています。
 RSウイルスとの大きな違いは、ヒトメタニューモウイルスが、NS1/NS2というタンパク質を持たない点です。NS1/NS2は、RSウイルスの中に存在するタンパク質で、病原体の感染からヒトの身体を守るインターフェロンの働きを邪魔してしまいます。ヒトメタニューモウイルスには、NS1/NS2がないので、RSウイルス感染症よりも症状が軽くなる傾向があります。

感染の原因がヒトメタニューモウイルスかどうかを特定する意義はない

 治療は、対症療法が中心になります。特別な治療を要するわけではないので、感染の原因がRSウイルスかヒトメタニューモウイルスかを特定する意味はほとんどありません。高熱でつらそうなら解熱剤を使用しながら、こまめに水分を摂らせて脱水にならないように気をつけ、自然に治るのを待ちます。
 低出生体重児や心臓病のある赤ちゃんは、重症化することがあるので、呼吸障害が強い場合は、入院を考慮して病院にご紹介することもあります。

コロナの影響で病気の広がり方が変わった?

 2024年の12月ごろから、中国でヒトメタニューモウイルスの感染が流行しているとの報道があります。中国政府によれば、季節性の流行と考えられるとのことです。コロナ禍に、厳格な感染症予防対策が採られた結果、免疫を持たない子どもが増え、大流行につながっている可能性があります。

 沖縄で、コロナ流行期だった2022年4月~5月に、ヒトメタニューモウイルスの感染で重い呼吸障害を起こして入院した子どもが相次いだと報告されています(病原微生物検出情報IASR 2022;43:188)。重症化しやすい1歳未満ではなく、超低出生体重児など、もともと病気を持っていた1歳以上の子どもが大半を占めていました。コロナ禍で赤ちゃんの時にヒトメタニューモウイルスに感染する機会がなく、1歳を過ぎてから初めて感染して重症化してしまったと考えられます。コロナが流行した影響で、ヒトメタニューモウイルス感染の広がり方が、従来と少し変化している可能性があります。

 ヒトメタニューモウイルスはありふれた感染症であり、ほとんどの子どもが自然に治ります。元気なお子さんにわざわざ検査をして原因を特定する意義はなく、保健所への届出対象でもないので、流行を正確に把握することは困難ですし、またその必要性も乏しいです。過度に恐れることはありませんが、人混みを避ける、人混みに近づくときはマスクをする、家に帰ったら手洗い・うがいする、規則正しい生活を送る、など、一般的な風邪の予防に努めるようにしましょう。

Q&Aコーナー

Q: ヒトメタニューモウイルスかどうかの検査はできますか?

A: ヒトメタニューモウイルスは、抗原検査キットで調べることができます。ただし、特別な治療法があるわけではないので、元気なお子さんに抗原検査をする意義は乏しいです。大久保駅前・林クリニックでも検査キットを常備していますが、検査の必要性については、重症度や基礎疾患の有無に基づき、医師が判断します。患者さんの希望で行うことはできません。
 また、PCR検査でも検出でき、大きな病院では重症な患者さんを対象に検査を行うことがあります。

関連記事

  1. 子どもの新型コロナウイルス感染症

  2. おむつかぶれ(おむつ皮膚炎)

  3. 弱視ー乳幼児健診でチェックする目の異常とは?

  4. フォンタン循環の患者さんも、積極的に遊びや運動を楽しもう!

  5. 子どもの高コレステロール血症~家族性高コレステロール血症とは…

  6. 赤ちゃんのスキンケア

PAGE TOP