RSウイルスは、毎年、主に秋から冬にかけて流行する呼吸器感染を起こすウイルスです。RSウイルス感染症は子どもの病気と考えられてきましたが、実は成人の肺炎の原因にもなっていることが分かってきました。特効薬はなく、かかってしまった場合、対症療法を行うことになります。
最近になって、高齢者向けのRSウイルスワクチン(商品名:アレックスビー)が使用できるようになりました。アレックスビーは、60歳以上が対象で、肩に1回筋注します。費用は28,000円(税込)です。受付窓口、もしくは電話でご予約ください。
RSウイルスは毎年流行し、何回でもかかる!
RSウイルス感染症は、子供たちの間で、毎年のように流行を繰り返します。2歳までにほとんどの子どもがRSウイルスに感染します。乳児が初めてRSウイルスに感染すると、細気管支炎を起こし重症化しやすいです。その後も何度も再感染しますが、再感染のたびに重症度は下がっていきます。
RSウイルス感染症は、一度かかっても免疫が維持されず、何回でもかかります。それは、(1) RSウイルスが気道の表面の細胞にしか感染しない、(2) RSウイルスの表面にある蛋白質が感染後に形を変化させる、などの理由により、強い免疫記憶が得られないためです。RSウイルスに感染しても、1年後には、抗体価がピーク時の1/4以下に下がってしまうのです。
成人でもRSウイルスが重症化するらしい!?
おとなでは、RSウイルスに感染してもウイルス量があまり増えません。そのため、おとなに対するRSウイルス抗原検査の精度はかなり低く、診断に使用できません。診断にはPCR検査が必要となります。手軽にRSウイルスと診断できないこともあり、おとなの肺炎にRSウイルスがどのくらい関与しているのか、あまり注目されてきませんでした。
近年の研究で、おとなの肺炎の12%くらいにRSウイルスが関与しており、インフルエンザよりも肺炎が悪化しやすいことが分かってきました。特に、抗がん剤や免疫抑制剤の治療中の患者さん、喘息や心臓病を有する患者さん、高齢者では肺炎になる危険が高いようです。RSウイルス感染症には特効薬はありません。かかってしまった場合、対症療法を行うことになります。
高齢者向けのRSウイルスワクチンが開発された!
アレックスビーは、60歳以上を対象としたRSウイルスワクチンです。1回接種することで、RSウイルスによる肺炎を8割ほど減少させる効果があります。肺疾患や糖尿病、慢性心不全などの基礎疾患を持つ患者さんに限れば、有効性はさらに高いです。副反応は、注射部位の痛みのほか、倦怠感や筋肉痛・関節痛などの全身症状もみられました。ただ発熱の頻度は2%と少なめです。
高齢者の肺炎は時に命にかかわります。肺炎が悪化して入院となり、入院のせいで筋力が低下して、生活の質が著しく低下してしまうこともあります。高齢者の肺炎に対する予防接種として、肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)に加え、RSウイルスワクチン(アレックスビー)の接種もぜひご検討ください。特に、糖尿病、慢性心不全などの基礎疾患がある60歳以上の方は、予防接種のメリットが大きいです。アレックスビーは、肩に1回筋注します。費用は28,000円(税込)です。受付窓口、もしくは電話でご予約ください。
参考文献:Nam HH, Ison MG. Respiratory syncytial virus infection in adults. BMJ 2019;366:l5021.
Q&Aコーナー
Q:RSウイルスの「RS」とは何の略ですか?
A:Respiratory Syncytial の略で、日本語に直訳すると「呼吸器合胞体」という意味になります。RSウイルスは、ヒトの気道の線毛上皮細胞に取り付きます。次に、ウイルスの表面にあるF蛋白の働きにより、繊毛上皮細胞の膜に融合して細胞内に侵入します。最初に取り付いた細胞だけでなく、となりの線毛上皮細胞とも次々と融合していくため、細胞が大きな袋のような形となり、これを合胞体とよびます。つまり、RSウイルスに感染した気道の表面には、この合胞体が作られていくため、「呼吸器合胞体(RS)ウイルス」と名付けられたのです。
なお、RSウイルスワクチン(アレックスビー)は、F蛋白に対する抗体を誘導します。