深部静脈血栓症とエコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群という病気を聞いたことがありますか?飛行機のせまい座席で長時間同じ姿勢をとり続けると、脚の静脈の血流が悪くなって血のかたまり(血栓)ができることがあります(これが深部静脈血栓症です)。急に立ち上がると血流が改善し、血栓が血液の流れに乗って移動する結果、肺の血管が詰まってしまうのです。症状として、呼吸困難や胸痛がみられます。重症だと、血圧が下がり、ショックに陥ることもあり、致死的となります。

長時間きゅうくつな姿勢+脱水があると危険

 エコノミークラス症候群の正体は、脚の静脈にできた血栓が肺の血管に詰まって起きる急性肺塞栓症です。

 これは飛行機のエコノミークラスに限った話ではありません。長時間きゅうくつな姿勢をとり続け、さらに脱水で血栓ができやすい状態なら起きる可能性があります。長距離列車や長時間のドライブでも起き得ます。1〜2時間に1回は、立ち上がって軽く体を動かすなどして血栓ができるのを予防しましょう。手術で入院してずっとベッドに横になっていても肺塞栓症の危険が高まりますので、病院では様々な対策(早期離床、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法など)をとっています。災害時に避難して自家用車で寝泊まりしている被災者が発症することもあります。

深部静脈血栓症が見つかったら、抗凝固薬で肺塞栓症への進展を防ぐ

 急性肺塞栓症は骨盤より下の静脈内にできた血栓(深部静脈血栓症)が一番の原因です。深部静脈血栓症では、血栓ができた方の脚が痛くなったり、色が変わったり、腫れ上がったりする症状が出ます。無症状のこともあります。

 深部静脈血栓症の診断には、超音波検査が有用です。脚の静脈を上から下へ、つまり大腿静脈〜膝窩静脈〜下腿静脈と、順を追って観察します。大腿静脈〜膝窩静脈に血栓が見つかったら、抗凝固薬を3ヶ月間投与して肺塞栓症への進展を防ぎます。

 また、深部静脈血栓症がそこまで可能性が高くなさそうなら、超音波検査ではなく、血液検査でDダイマーを測定します。Dダイマーが上昇していなければ、深部静脈血栓症ではないと言えます。

膝より下の血栓は、肺塞栓症には進展しにくい

 脚の静脈の超音波検査では、ふくらはぎにある下腿静脈に血栓が見つかることがあります。大腿静脈~膝窩静脈の血栓と異なり、下腿静脈の血栓は肺塞栓症に進展することはかなり少ないです。この場合、抗凝固療法を行うメリットよりも、出血という副作用のほうが問題となってしまいます。抗凝固療法を行うのは、肺塞栓症を過去に起こしたことがあるなど、危険の高い患者さんに限られます。ほとんどの方では、1~2週間後に血栓が太ももの方へ伸びていないかどうかを、超音波検査で確かめるだけで、特に治療は行いません。

Q&Aコーナー

Q:どんな患者さんで、深部静脈血栓症を起こす危険が高いのですか?

A:深部静脈血栓症や急性肺塞栓症を起こす危険が高い要因として、つい最近まで入院していたとか、骨折して寝ていたとか、女性ホルモンの補充療法をしている、あるいは治療中の癌があること、が挙げられます。他にも、妊娠、肥満、喫煙、高齢であることも危険因子です。このような方に急に呼吸困難がみられたら、急性肺塞栓症に注意して検査が必要です。このような危険因子がないにもかかわらず深部静脈血栓症を起こした患者さん、特に50歳以下の方では、抗リン脂質抗体症候群や膠原病の可能性も考えます。

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