心臓弁膜症

 心臓には、血液が一方通行に流れるように、全部で4つの逆流防止弁がついています。左心室の入口にある「僧帽弁」、左心室の出口にある「大動脈弁」、右心室の入口にある「三尖弁」、右心室の出口にある「肺動脈弁」の4つです。

 心臓弁膜症とは、これらの弁の開きが悪くなってせまくなったり(弁狭窄症)、閉じた時にすき間があいて逆流したり(弁閉鎖不全症あるいは弁逆流症)する病気です。心臓弁膜症は、加齢に伴う変性や生まれつきの形態異常などが原因になります。

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弁膜症の症状は息切れ、呼吸苦、胸痛、失神など

 左心室は全身に血液を送り出す役割をしています。したがって、左心室にある僧帽弁と大動脈弁の弁膜症は症状が出やすいです。高齢化に伴って、僧帽弁逆流、大動脈弁逆流、大動脈弁狭窄の患者さんが増えています。

 僧帽弁や大動脈弁の弁膜症の症状は、息切れや胸痛です。弁膜症では左心室に負担がかかって、左心室の機能が悪くなってきます(心不全)。すると、肺から血液が戻りにくくなり、肺に血液がたまって(肺うっ血)、呼吸障害が出るのです。大動脈弁狭窄症の場合は、左心室の出口がせまくなるので、全身に十分な血液が送り出せなくなり、失神や突然死を起こすこともあります。

 弁膜症は、ある程度重症になってはじめて症状が出ます。息切れや呼吸苦を感じる場合は、ぜひ一度、医師に相談してください。

 また、弁膜症では、症状がない段階でも、聴診すると心雑音がきこえます。健診などで心雑音があった場合は、心エコー検査で弁膜症をチェックするのが良いでしょう。特に65歳以上になると、弁膜症の危険が高くなってきます。

心エコー検査で診断し、重症度を調べる

 心臓弁膜症は、心エコー検査で診断します。心エコー検査では、弁のかたちや動きを観察できます。逆流の量や狭窄の強さをみることで、弁膜症の重症度が分かります。

 心エコー検査では弁膜症の原因も調べられます。加齢に伴う弁膜症は、弁の石灰化(カルシウムが付着して弁がかたくなってしまう)によって起こります。それ以外にも、心筋梗塞の影響で僧帽弁の支持組織が壊れたり、弁がぶよぶよにふくらんでしまったり(僧帽弁の粘液腫様変性)、生まれつき弁の開きが悪い(先天性大動脈二尖弁)といった原因もあり得ます。病気の悪化速度や、治療法の選択にも影響しますので、なるべく詳しく検査します。

 さらに、弁膜症のせいで心機能が悪化しているかどうかもチェックできます。弁膜症が進んでくると、左心室の動きが悪くなったり、左心室自体が拡張してきたりします。心機能障害の有無は、手術をするかどうか決める上でも重要になってきます。

手術が必要なのは、症状がある場合と、無症状でも心機能が低下している場合

 弁膜症の治療は、手術になります。手術で弁の形を整える(弁形成術)方法と、人工弁にとりかえてしまう(弁置換術)方法があります。最近では、カテーテルを用いた治療法も開発されています。どの治療法を選ぶかは、弁のかたち、弁膜症の重症度、心機能、年齢などによって決まります。

 基本的に、症状がある場合は、手術がすすめられます。また無症状でも、左心室の収縮力低下や左心室の拡張がある場合も、手術がすすめられます。心機能が低下していると、近いうちに症状が出る可能性が高く、さらに心機能が低下すると治療が難しくなるためです。

 弁膜症があっても、無症状で心機能も正常なら、定期的に診察して注意深く様子をみていきます。検査の頻度は、軽症なら3~5年に1回、中等症なら1~2年に1回です。

Q&Aコーナー

Q:二次性僧帽弁逆流とは何ですか?

A:心筋梗塞後や心筋症の患者さんでは、僧帽弁そのものには異常がなくても、僧帽弁逆流がおきることがあり、これを二次性僧帽弁逆流あるいは機能性僧帽弁逆流といいます。
 心筋梗塞後や心筋症では、心不全が存在します。つまり、左心室の収縮力が低下して、左心室が拡張しています。左心室の入口にある僧帽弁も引っ張られて、僧帽弁がゆがんでしまい、逆流が起きるのです。
 治療としては、まず心不全の治療をしっかりとおこなうことが大切です。飲み薬のほか、ペースメーカによる治療などもおこなった上で、それでも僧帽弁逆流が改善しない場合に限って、手術をすることがあります。

Q:三尖弁や肺動脈弁の弁膜症は、治療することはないのですか?

A:右心室は肺に血液を送り出すだけなので、そこまで収縮力は強くありません。右心室にある三尖弁と肺動脈弁の弁膜症は、治療が必要になることは少ないです。ただし、生まれつきの形態異常による弁膜症(ファロー四徴症の術後や、先天性肺動脈弁狭窄症)はこの限りではありません。
 僧帽弁や大動脈弁の弁膜症があると、心機能が低下し、三尖弁逆流がみられることがあります。複数の弁膜症が同時に起きることで、症状が悪化しやすくなります。このような場合には、僧帽弁・大動脈弁に対する手術をするときに、同時に三尖弁の手術をすることもあります。
 また心房細動という不整脈が続いていると、やはり心機能が低下して三尖弁逆流がみられることがあります。不整脈の治療を十分におこなっても症状が良くならない場合は、三尖弁の手術をおこなうことがあります。

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