おとなの気管支喘息

口から吸った空気は、気管そして気管支を通って肺に送られます。この空気の通り道を気道と言います。気管支喘息では、アレルギー反応が起きて発作的に気道がせまくなり、ヒューヒューという呼吸音がしたり、呼吸が苦しくなります。おとなの約10%が喘息を患っています。治療にあたっては、「長期管理=発作が起きにくいようにする治療」と、「急性期治療=発作が起きたときにそれを抑える治療」の2つに区別して考えます。

長期管理:喘息発作が起きていない時期も薬を続けて、気道を良い状態に保つ!

気管支喘息をうまく管理するには、発作のないときも薬を続けることが大切です。気管支喘息の患者さんでは、発作のないときも、気道に炎症が起きていて、気道が過敏な状態にあります。風邪をひいたり、冷たい空気やアレルギーの原因となる物質を吸い込んだり、運動時に強く息を吸ったりすると、過敏な気道が刺激されて発作が起きます。気管支喘息の治療の目標は、発作が起きにくいようにすることです。そのためには発作のないときも薬を続けて、気道の炎症を抑えておかなくてはなりません。

長期管理の柱は、ステロイドの吸入薬

おとなの気管支喘息の長期管理では、ステロイドの吸入薬が使われます。ステロイドの吸入薬には、気道の炎症を抑える効果があります。

症状が週に1回未満で、日常生活や睡眠が妨げられることがない軽症の患者さんには、ステロイドの吸入薬を少なめの量で使います。症状がもっと重い患者さんには、ステロイドの吸入薬の量を増やします。効果が不十分な場合は、気道を広げる作用のある長時間作用型β2刺激薬の吸入も一緒に使ってもらいます。

吸入ステロイド薬には、ベクロメタゾン(キュバールR)フルチカゾン(フルタイドR)、ブデゾニド(パルミコートR)などがあります。基本的には1日2回、吸入してもらいます。

ステロイドと長時間作用型のβ2刺激薬が配合された吸入薬(アドエアRなど)もあり、両方の吸入薬が必要な患者さんには便利です。

発作が起きたときはβ2刺激薬で気管を広げる治療

発作が起きてしまったときは、短時間作用型β2刺激薬の吸入で治療します。β2刺激薬は、気道の平滑筋の収縮を抑えて、気道を広げる効果があります。自宅での吸入は2回まで行ってもよいです。2回吸入しても症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。

よく使われる吸入β2刺激薬には、サルタノールRメプチンエアーRなどがあります。スプレー式になっていて、発作が起きたときに吸入します。

発作が起きたときにそれを抑えるのが目的の薬ですので、効果の持続時間は短いです。症状が改善しなかったり、再発する場合は、医療機関を受診して下さい。医療機関では、さらに強力な治療(酸素吸入、ステロイドの静脈注射、輸液)を行います。

Q&Aコーナー

Q:ステロイドの吸入薬にはどんな副作用がありますか?

A:ステロイドはもともと、副腎という臓器で作られるホルモンで、全身の代謝を調節する働きがあります。炎症を抑えるほかにも、血糖値を上げたり、血圧を上げたり、肝臓が糖をたくわえる働きを強めたりします。副腎で作られるステロイドは、生命を維持していく上では不可欠なホルモンです。
 ステロイドを投与すると、本来ステロイドを産生している副腎の働きが弱まってしまう、続発性副腎不全という副作用を起こすことがあります。特に長期にわたってステロイドを投与していると、副腎不全が起こりやすいです。この状態で、急にステロイドの投与を止めると、ステロイドホルモンが足りなくなり、疲れやすいなどといった全身の不調につながります。
 ステロイドの吸入で副腎不全を起こす可能性は、飲み薬や注射に比べると低いです。ただ、副腎不全を起こす危険がゼロというわけではありません。ステロイドの吸入薬のなかでは、フルチカゾンが他の種類の吸入薬よりも副腎不全を起こしやすいことが分かっています(Arch Dis Child 2002;87:457)。特に長期にわたってステロイドの吸入を使っている方は、自己判断で急に薬を止めたりしないで下さい。

Q:気管支喘息で、血液検査をすると何が分かりますか?

A:血液検査で、特異的IgE抗体を調べることで、気管支喘息のアレルギーを起こす原因物質が分かることがあります。特に多いのは、ダニです。他にも、ペット(犬や猫)の毛、カビ(アスペルギルスなど)、昆虫(蛾)、花粉などが原因になります。原因物質が分かれば、日常生活でそれを避ける対策がとれます。
 年齢の若い喘息患者さんで、アレルギーの原因がダニ単独である場合、アレルゲン免疫療法が効く可能性があります。アレルゲン免疫療法とは、わざと少量のダニ成分(きちんとした薬として発売されていますので安心して下さい)を投与して弱いアレルギー反応を起こし、アレルギーを麻痺させる治療法です。
また、重症の気管支喘息の患者さんでは、血中の好酸球数が150~300 /μLと高値である場合、抗体製剤(ヌーカラRなど)という新しい薬が有効な可能性があります。

Q:高齢者の喘息で注意すべきことは何ですか?

A:喘息の治療の柱となるステロイドの吸入薬は、飲み薬やぬり薬とちがって、使い方になじみのないものです。高齢者では、正しく吸入ができていないことがあり、ご家族の方にも協力して治療を進める必要があります。
 また、喘息以外の持病の薬が、喘息を悪化させる可能性があります。例えば、心臓病で使われるベータ遮断薬や、痛み止めとして使われるNSAIDsは、喘息の引き金になることがあります。逆に、喘息の薬が持病に影響を与えることもあります。例えば、ベータ刺激薬は不整脈や高血圧を悪化させることがありますし、ステロイドが骨粗鬆症を悪化させることもあります。
 高齢者の治療では、全体のバランスをみながら薬を調整しなければなりません。副作用かな?と思ったら、ぜひ一度、医師に相談してください。

Q:アスピリン喘息とは何ですか?

A:喘息の患者さんの中には、アスピリンやNSAIDsを使うと、咳や呼吸困難を起こすことがあります。これをアスピリン喘息と呼びます。アスピリン以外のNSAIDsも原因になるので、最近は正確を期して「NSAIDs過敏喘息」と呼ぶこともあります。
 症状としては、NSAIDsを投与した1~2時間後に、咳、呼吸困難や、鼻水、鼻づまりなどがみられます。顔や目が赤くなることもあります。嗅覚障害を合併することがあります。おとなの喘息患者さんの10%くらいで起こると言われています。過去にNSAIDsを使って喘息症状が出なかったとしても、次にNSAIDsを使ったときに発症することがあり得ます。
 アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)は、代謝の異常によって、NSAIDs投与が気管支を収縮させる物質の過剰産生を引き起こすのが原因です。アレルギー反応ではないので、一般的な喘息の薬では予防できません(発作時は気管支拡張薬であるβ2刺激薬が使えます)。
NSAIDs過敏喘息のある患者さんが、抗血小板薬や痛み止めを必要とする場合、アスピリンやNSAIDs以外で、同じような効果のある薬に切り替えることがすすめられます。

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