百日咳は赤ちゃんだけの病気ではありません

 百日咳とは、その名のとおり、100日もの長い間、咳が続く病気です。百日咳菌やパラ百日咳菌によって起きる感染力の強い感染症です。赤ちゃんがかかると重症化します。四種混合ワクチンで予防することができ、赤ちゃんの定期予防接種に組み込まれています。ただ、予防接種の効果は5歳をすぎると低下してしまいます。小中学生やおとなが百日咳にかかることもありますので、長引く咳がある場合は、医療機関で相談してください。また、百日咳への免疫を確実にするために、小学校入学前に三種混合ワクチンを追加で接種することがすすめられます。

百日咳は赤ちゃんがかかると重症化する

 百日咳は、6ヶ月未満の赤ちゃんがかかると重症化します。百日咳の咳は、普通の咳ではありません。一息吐く間に、マシンガンのように何回も咳き込みます。咳き込んだあとは、まるで空気に飢えたように息を吸い込み、狭くなった気道を勢いよく空気が通るので変な音がします。これを何日間にもわたって、断続的に繰り返し、痙咳発作とよびます。ミルクを飲むのも大変で、入院が必要になります。ひどい咳き込みのせいで、顔面の皮膚に点状の出血を起こします。

 生後2~3ヶ月未満の赤ちゃんだと、咳をするほどの力がなく、無呼吸とチアノーゼ(低酸素により顔色が紫色になる)だけを認めることもあります。特に重症の百日咳では、脳内に出血したり、肺の血管が詰まって肺高血圧となって、致命的となります。

 四種混合ワクチンには、百日咳に対するワクチンが含まれています。生後3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、そして1歳時の合計4回、しっかりと予防接種を受けさせましょう。

赤ちゃんの時に受けた予防接種の効果は、5歳を過ぎると低下する

 予防接種の普及で、重症の百日咳に苦しむ赤ちゃんが減ったのですが、百日咳に対する予防接種の効果は、5歳くらいになると下がってきてしまうことが問題となっています。

 その結果、小中学生やおとなが百日咳にかかり、予防接種を受ける前の生後3ヶ月未満の赤ちゃんに感染して重症の百日咳になってしまうのです。日本全国で、年間400人くらいの生後3ヶ月未満の赤ちゃんが百日咳にかかっています(国立感染症研究所の報告)。

 おとなも百日咳にかかります。熱もない、だるさや悪寒、喉の痛みもない。けれど咳だけが長引いている。こんな症状がある方は、ぜひ医療機関を受診してください。百日咳と診断されれば、抗菌薬を5日ほど飲むことで、他人にうつす危険はなくなります。特に、赤ちゃんの接する機会のある方は、早めにご相談ください。

小学校入学前に追加のワクチン接種をおすすめします

 赤ちゃんの時に受けた予防接種による百日咳への免疫は、5歳をすぎると下がってきてしまいます。そこで、諸外国では小学校入学前に、三種混合ワクチンを追加接種して、百日咳への免疫を強化するようになりました。日本でも、近い将来、小学校入学前の追加接種を定期接種に組み込むべく、検討が始まっています。

 現時点では、希望する方には、小学校入学前に三種混合ワクチンを自費で接種することができます。特に、赤ちゃんがいるご家庭にはおすすめします。小学校入学前に定期接種することになっているMRワクチンと同時に接種することもできますので、ご相談ください。

Q&Aコーナー

Q:百日咳はどうやって診断するのですか?

A:まず、年齢にかかわらず、長引く咳をみたら、百日咳かもしれないと考えることが重要です。その上で、血液検査を行って、百日咳に対する抗体価を調べます。発症早期と回復期に血液検査をして、百日咳の毒素に対する抗体(PT-IgG抗体)が、回復期に2倍以上に上昇していれば、百日咳と診断できます。PT-IgG抗体が90 単位/mL以上の高い値であれば、1回の検査で百日咳と診断できます。
 百日咳菌を直接検出する方法(培養やPCR検査)もありますが、予防接種を受けたことのある人では、発症早期を過ぎると検出率が低くなってしまいます。
 他に、診断の手がかりになる検査所見として、リンパ球優位の白血球増加(リンパ球数が2万/μLを超える)があります。胸部X線は、他の細菌の合併感染で肺炎を起こせば、胸部X線で肺炎像がみられますが、百日咳だけなら胸部X線では異常がみられません。


Q:百日咳はどうやって治療するのですか?

A:抗菌薬をのんで治療します。アジスロマイシンやクラリスロマイシンが有効で、決められた期間、抗菌薬を飲めば、他人にうつす危険はなくなります。おとなの場合、アジスロマイシン500 mgを1日目に飲み、以後5日目まで毎日250 mgずつ飲んで治療終了です。ただ、日本の保険診療の規則では、アジスロマイシンは1日500 mgを最大3日間使うことになっています。
 抗菌薬は感染力をなくす効果はありますが、咳そのものには効果がありません。百日咳の咳は、百日咳菌が作り出す毒素(PT)によって気道の繊毛上皮が傷つくことで起きます。抗菌薬で百日咳菌が消えても、繊毛上皮はすぐには元に戻りません。咳に対しては、対症療法を行って様子をみるしかありません。

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