筋肉痛はコレステロールの薬の副作用なのか?

 高コレステロール血症は、動脈硬化の原因となり、心臓病や脳梗塞を引き起こします。健康診断でコレステロールが高いと言われ、コレステロールを下げる薬を飲んでいる方も多いでしょう。

 コレステロールを下げる薬で、最も良く使われているのが「スタチン」という種類の薬です。スタチンは非常に良い薬で、心臓病や脳梗塞を大きく減らす効果があります。生活習慣病の治療には欠かせない薬です。

 スタチンの副作用として、横紋筋融解症という筋肉の病気があります。薬局でもらう薬の説明には、筋肉痛、筋肉のこわばり、脱力感などに気をつける必要があると書かれていることが多いです。筋肉痛があったら、スタチンの副作用を心配して、薬を止めるべきなのでしょうか?

血液検査で筋障害が疑われても、無症状なら、安易に薬を止めないで!

 クレアチンキナーゼ(CK)は、筋細胞に存在する酵素です。筋肉の病気があると、血中にCKが漏れてきて、血液検査でCKが高値になります。一方で、筋トレなどの運動、長時間の歩行、寒さによる震え、緊張によるこわばりなど、日常生活の些細な出来事で筋肉にダメージが加わるだけでも、CKは上昇します。

 高コレステロール血症の治療中の方は、治療効果の確認のために、血液検査を受ける機会が多いです。その際に、偶然、CKの上昇が見つかることがありますが、それが必ずしも病的であるとは言えません。特に、筋症状が何もない場合は、CK上昇の医学的な意義は不明です。自己判断で、スタチンを中止しないようにしましょう。

スタチンと関係のない筋症状も多い

 スタチンに関連した筋症状の特徴として、大腿や背中、臀部(お尻)などの比較的大きな筋肉に、左右対象にみられることが多いです。スタチンの内服開始から1ヶ月前後以内に起こるのが一般的です。

 スタチンを内服している患者さんの7~29%に、筋肉痛や筋肉のこわばり、脱力感がみられます。意外に頻度が多いですね。しかし、大規模な研究では、スタチンを内服している人と、内服していない人で、筋症状の出現頻度に大きな差がないことが分かっています[1]。したがって、筋症状の全てが、スタチンの副作用というわけではありません。CKが正常上限の10倍を超えない程度なら、筋症状はスタチンとは関係ないかもしれません。

[1] Circulation 2013;127:96

スタチン治療の利点と、筋症状の程度を、てんびんにかけて考える

 筋症状の副作用は、スタチンの内服を中断してしまう主要な原因となっているのが現状です。しかし、スタチンには、心臓病や脳梗塞を大きく減らすという明確な効果があります。スタチンを続けるかどうかは、患者さんごとに慎重に判断する必要があります。筋症状のつらさと、心臓病・脳梗塞の危険度を、てんびんにかけて考えるべきです。

 例えば、筋症状があって、CKが正常上限の4倍~10倍に上昇していた場合を考えてみましょう。高血圧も糖尿病も肥満もない患者さんなら、いったんスタチンを中止して、筋症状やCKの変化を観察するのが良いです。食生活を見直したり、適度な運動をすることで、スタチンが不要になるかもしれません。一方、心筋梗塞を起こしたことがある患者さんなら、スタチンは続けて、CKの変化を追うのが適切でしょう。あるいは、別の種類のスタチンや、エゼチミブなどの別の系統のコレステロール降下薬に変更するのも選択肢の一つです。

参考文献:Eur Heart J 2015;36:1012

Q&Aコーナー

Q:スタチンが筋症状を起こすメカニズムは解明されているのですか?

A:スタチンがなぜ筋症状を起こすのかについては、完全には解明されていません。現時点で有力な説は、スタチンが筋細胞のミトコンドリアの働きを低下させるのが原因、というものです。
 ミトコンドリアとは、筋細胞の中に存在する器官で、筋肉が縮むために必要なエネルギーを作り出す働きをしています。スタチンは、どうやら、ミトコンドリアがエネルギーを作り出すのに必要な酵素(コエンザイムQ10など)の機能を邪魔してしまうようです。その結果、様々な筋症状が出現すると考えられています。ただ、コエンザイムQ10のサプリメントを飲んでも、筋症状を改善させることはできません[2]。もっと複雑な仕組みがかかわっていそうです。

[2] Mayo Clinic Proc 2015;90:24

Q:横紋筋融解症とは何ですか?

A:横紋筋融解症とは、重度な筋傷害によって、筋肉に含まれるミオグロビンが血中に漏れ出し、腎不全を起こす病気です。CKは正常上限の40倍を超え、重度の筋痛や全身の筋力低下が生じます。ミオグロビンの影響で、尿が赤茶色になります。熱中症や外傷(体が押しつぶされて筋肉が壊れる)、スタチンや精神病の薬などが原因になります。
 スタチン内服中で、筋症状があり、CKが正常上限の10倍を超えてきた場合は、横紋筋融解症の危険があるので、スタチンをいったん中止する必要があります。

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