動脈硬化のある患者さんの糖尿病管理

糖尿病の患者さんは、動脈硬化を起こしやすい

 動脈硬化とは、血管の壁に脂肪や白血球の残骸のかたまりができ、血管が狭くなってしまった状態です。糖尿病の患者さんは、糖尿病でない方に比べ、動脈硬化を2倍も起こしやすいことが分かっています。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞(まとめて心血管疾患とよばれます)につながります。

 動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険度は、年齢、コレステロール値、血圧、タバコを吸うかどうか、などから見積もることができます。大規模なデータから、危険度を算出してくれるウェブサイト(http://www.cvriskcalculator.com/)もあります。

 糖尿病の患者さんで、すでに心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまった方や、その危険が高いと考えられる方では、糖尿病の治療薬を選ぶ時に、心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果のある薬を使うことがすすめられます。

SGLT2阻害薬は心血管疾患を予防する効果がある

 SGLT2阻害薬は、比較的新しい糖尿病の薬です。腎臓で作られた尿からブドウ糖が再吸収されないようにすることで、血糖値を下げるという仕組みの薬です。体重を減らす効果もあり、肥満の方の糖尿病治療にはぴったりです。世界的な研究で、SGLT2阻害薬を使った糖尿病患者さんでは、心筋梗塞や脳梗塞が減り、また死亡率も下がることが分かりました。

 動脈硬化のある糖尿病患者さんでは、現在飲んでいる薬に加えて、SGLT2阻害薬も飲むことを積極的に考えてよいでしょう。

 SGLT2阻害薬には、empagliflozin (ジャディアンス)、dapagliflozin (フォシーガ)などがあります。いずれも心筋梗塞や脳梗塞を減らす効果があります。心収縮力が低下している場合に、心不全による死亡率を下げる効果もあります。

糖尿病の治療の柱は食事/運動/薬物療法

 当然ですが、SGLT2阻害薬だけに頼るのは治療としては不十分です。食事や運動などの生活習慣を改善すること、また他の糖尿病薬も併用して、血糖を十分に下げることが重要です。

 動脈硬化のある方では、HbA1c 6.5%~7.0%を目標とするのが適切です。血糖正常化に相当するHbA1c 6.0%未満を目標にして治療すると、心筋梗塞や脳梗塞がかえって増えてしまうというデータがあるためです。もちろん、低血糖を起こしてしまうようなら、もっとゆるめの目標にします。

 メトホルミン(メトグルコ)は糖尿病治療薬として最も広く使われている薬ですが、動脈硬化のある糖尿病患者さんでも治療の柱となる薬です。メトホルミンを飲んで血糖値を下げるだけでも、心筋梗塞などの予防になります(N Engl J Med 2008;359:1577)

参考文献:Clinical Practice: Glucose-lowering drugs to reduce cardiovascular risk in type 2 diabetes.
(N Engl J Med 2021;384:1248-1260)

Q&Aコーナー

Q:逆に、心臓病がある場合に使わない方が良い糖尿病の薬はありますか?

A:チアゾリジン薬であるピオグリタゾン(アクトス)は、水分貯留によるむくみ、体重増加という副作用があり、心不全のある患者さんには使えません。スルホニル尿素薬(グリベンクラミド [オイグルコン]など)は、心筋梗塞のリスクを高める可能性があり、注意が必要です。
 80歳以上の高齢者に使われることの多いDPP-4阻害薬は、サキサグリプチンを除き、心臓病のリスクを増やすことも減らすこともないようです。食後の高血糖を改善する薬であるグリニド薬(ナテグリニド、レパグリニドなど)やαグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース、ボグリボースなど)も同様に、心臓病のリスクを増やすことも減らすこともありません。

Q:糖尿病の注射薬は、心臓病に影響を与えますか?

A:インスリン注射は、これまでの研究データからは、心臓病に悪影響を与えることはないようです。 また、GLP-1受容体作動薬は、心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果もあることが分かっています。注射薬なので、対象となる患者さんは限られますが、動脈硬化がある患者さんに使うメリットはあります。

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糖尿病と診断されるのは、空腹時血糖が126 mg/dL以上、HbA1cが6.5%以上の両方の基準を満たす場合です。空腹時血糖が100 mg/dL以上、HbA1cが5.6%以上なら、「糖尿病予備軍」と考えて、早いうちから生活習慣の改善に取り組むのが良いでしょう。糖尿病の治療の柱は食事、運動、薬物療法です。

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