いちばんよく使われている痛み止めは、NSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬) という薬です。ロキソニンやバファリン(小児用を除く)といった、薬局で買える飲み薬の痛み止めや、サロンパス、バンテリンなどの湿布、塗り薬は、いずれもNSAIDsが主成分です。病院で処方される痛み止めも、その多くはNSAIDsです。NSAIDsは、確かな効果のある痛み止めとして、広く使われていますが、使用する上でどんなことに注意すれば良いでしょうか?副作用はないのでしょうか?
まずは湿布・ぬり薬を使い、効果が不十分なら飲み薬
痛み止めには、湿布、ぬり薬、飲み薬がありますが、まずは、湿布・ぬり薬を試してみましょう。湿布・ぬり薬では効果がない場合は、飲み薬を使うことになります。
副作用を起こさないようにすることからも、最初から全身投与(飲み薬)をするのではなく、まず局所投与(湿布・ぬり薬)で効き目があるかを試します。飲み薬を使う場合も、効き目が得られる最小限の量、回数で薬を使います。頓用といって、痛むときだけ使う方法もすすめられます。
飲み薬をある程度長期間(4週間以上)使い続ける場合は、特に副作用に注意が必要です。
心筋梗塞を起こしたことがある人、高血圧のある人、腎機能の悪い人は、必ず医師に相談
NSAIDsは、血圧が上がってしまう、心筋梗塞の危険を高める、腎機能を悪化させる、という副作用があります。
特に基礎疾患のない若い方なら、これらの副作用が問題になることはあまりありませんが、長期間(4週間以上)使い続ける場合は、定期的な血圧のチェックをした方が良いでしょう。また足のむくみは、腎機能が悪くなっているサインかもしれませんので、注意してください。
高血圧で血圧を下げる薬(降圧薬)を飲んでいる場合は、NSAIDsの使用により降圧薬の効きが悪くなることがあります。特にACE阻害薬・ARBは効きが悪くなることがあるようです。定期的に血圧を測定し、降圧薬を増やして対応します。
心筋梗塞については、ナプロキセンが比較的、安全とされています。高血圧や糖尿病、高脂血症などの複数の基礎疾患を持つ高齢者、心筋梗塞や脳卒中、心不全を起こしたことのある方が、どうしてもNSAIDsを必要とする場合は、このような薬を選ぶようにします。
NSAIDsは急性腎障害(AKI)を引き起こすことがあり、高齢者や糖尿病の患者さんなど、もともと腎機能が悪い人では特に危険が高くなります。腎臓病のある人は、NSAIDsを飲み始めたら、3~7日くらいで血液検査を行って腎機能が悪化していないかチェックします。
NSAIDsを長期間(4週間以上)使う場合は、胃薬も一緒に飲む
NSAIDsは、胃の粘膜を守る物質(プロスタグランジンE2)の産生を減らすため、胃腸が荒れやすくなります。ひどい場合は、胃や十二指腸の表面がただれて、消化性潰瘍となります。消化性潰瘍を起こしたことのある人や高齢者が、NSAIDsを飲む場合は、胃薬(PPIという種類の胃酸分泌抑制剤がよい)も一緒に飲んで、消化性潰瘍を予防します。
消化性潰瘍を起こしたことのない若い方が短期間NSAIDsを使う場合は、胃薬は不要です。NSAIDsのなかでも消化性潰瘍を起こしにくいロキソプロフェンやセレコキシブを選ぶのも一つの手です。
心臓病があって、血をかたまりにくくする目的でアスピリンを飲んでいる方が、痛み止めとしてNSAIDsを使う場合も、胃薬の併用がすすめられます。アスピリン自体がNSAIDsの一種であり、さらに別のNSAIDsも使うと、消化性潰瘍を起こしやすくなるからです。
NSAIDsは、胃だけでなく、下部消化管(小腸・大腸)の粘膜も荒らすことがあります。下部消化管の障害には胃薬は効きません。気づかれないまま消化管から出血が続き、貧血になってから、下部消化管の障害に気づかれることがあります。長期間NSAIDsを使う場合は、定期的に血液検査(貧血のチェック)や内視鏡検査(胃カメラ)をするのがよいでしょう。
参考文献:Gut 2020;69:617-629
Q&Aコーナー
Q:NSAIDsが効かない痛みはあるのですか?
A:NSAIDsが効かない代表的な痛みとして、帯状疱疹後神経痛があります。これは神経の根元にひそんでいた帯状疱疹ウイルスが痛みの神経を刺激することで生じる痛みであり、NSAIDsは効きません。
ケガをした箇所などの痛みのおおもとの部位には、プロスタグランジンEという痛み物質が作られます。これが痛みの神経を刺激し、痛みの感覚が脳に伝わって、痛みを感じます。NSAIDsは痛み物質が作られるのを抑えることで鎮痛効果を発揮します。帯状疱疹後神経痛のように、痛みの神経そのものが異常な活動をすることで生じる痛み(神経障害性疼痛)にはNSAIDsは効かないのです。プレガバリンという、痛み神経の伝わりを抑える薬が有効です。
Q:子どもにNSAIDsを使っても良いですか?
A:15歳未満の子どもに安全に使用できるNSAIDs系の痛み止めは、アセトアミノフェンとイブプロフェンの2種類です。これらは発熱したときの解熱剤としても使えます。
その他のNSAIDsは、15歳未満の子どもには原則として使いません。インフルエンザや水痘にかかったときにNSAIDsを使うと、脳症を引き起こすことがあるためです。特に、発熱時には使用してはいけません。年長のお子さんで、アセトアミノフェンやイブプロフェンが効かない場合に、痛み止めとしてやむを得ず使用することがありますが、必ず医師の指示に従って下さい。
Q:スポーツをするときに、痛み止めとしてNSAIDsを使ってもよいのですか?
A:スポーツにはケガがつきものです。激しいトレーニングでは痛みを伴うこともあるでしょう。痛みを抑えて競技を継続するために、スポーツの世界では、NSAIDsが頻繁に用いられています。痛みに対処するために短期的にNSAIDsを使うのは問題ありません。NSAIDsは、ドーピング禁止薬には指定されていません。
痛みを感じにくくすることでパフォーマンスが上がることを期待して、普段の練習でNSAIDsを常用するのは止めてください。そもそも、NSAIDsを飲み続けることで、パフォーマンスが上がるという根拠はありません。副作用の心配もあります。さらに、NSAIDsは筋肉でのタンパク質合成を低下させたり、トレーニングで壊れた筋線維の回復を遅らせたりしてしまうことが分かってきています(Lundberg et al. Scand J Med Sci Sports 2018;28:2252-2262)。
Q:アスピリン喘息とは何ですか?
A:喘息の患者さんの中には、アスピリンやNSAIDsを使うと、咳や呼吸困難を起こすことがあります。これをアスピリン喘息と呼びます。アスピリン以外のNSAIDsも原因になるので、最近は正確を期して「NSAIDs過敏喘息」と呼ぶこともあります。症状としては、NSAIDsを投与した1~2時間後に、咳、呼吸困難や、鼻水、鼻づまりなどがみられます。顔や目が赤くなることもあります。嗅覚障害を合併することがあります。おとなの喘息患者さんの10%くらいで起こると言われています。過去にNSAIDsを使って喘息症状が出なかったとしても、次にNSAIDsを使ったときに発症することがあり得ます。
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)は、代謝経路の異常によって、NSAIDs投与が気管支を収縮させる物質の過剰産生を引き起こすのが原因です。アレルギー反応ではないので、一般的な喘息の薬では予防できません(発作時は気管支拡張薬であるβ2刺激薬が使えます)。NSAIDs過敏喘息のある患者さんが、抗血小板薬や痛み止めを必要とする場合、アスピリンやNSAIDs以外で、同じような効果のある薬に切り替えることがすすめられます。