鉄欠乏

なんとなく体の調子が悪いのが、鉄欠乏のせいだった、というのは実は良くある話です。鉄欠乏を起こしやすい人は、5歳までの子ども(体が急激に成長する時期)と女性(月経による出血で鉄が失われる)と言われています。しかし、成人男性や、閉経後の女性でも、鉄欠乏は起こります。

鉄欠乏の症状では、貧血がよく知られています。貧血の他にも、疲れやすくなったり、集中力が低下したり、頭痛、皮膚や口内の乾燥など、健康を損ねるさまざまな症状を起こします。心不全や虚血性心疾患などの、心臓に基礎疾患を悪化させることもあります。鉄欠乏は、早めに発見して、早めに治療するのがよいでしょう。

鉄欠乏は血液検査で診断

症状を確認した上で、貧血かどうかを、血液検査で調べます。鉄は赤血球(血液の赤い成分)に不可欠なので、鉄欠乏になると、赤血球が少なくなったり、小さくなったりして、血が薄くなります。血液検査で赤血球の量や大きさを調べると、貧血の診断ができます。

鉄欠乏かどうかを直接調べるには、血液検査で、フェリチンという貯蔵鉄の量を計測します。おおまかには、フェリチンが15 μg/L未満だと、鉄欠乏と診断できます。年齢・症状や、他の病気の有無によっても、判断基準は変わってきます。例えば、炎症があったり、NAFLDなどの肝臓病がある場合は、それだけでフェリチンが上がりますので、フェリチン値が正常範囲内でもほんとうは鉄欠乏である可能性があります。

鉄剤の内服で治療

鉄欠乏は、鉄剤の内服薬を飲んで、鉄を補うことで治療できます。

鉄を効率よく吸収させる投与法についても色々と研究されています。鉄剤を毎日2回に分けて飲むよりも、まとめて1回、しかも1日おきに飲むと効率がよいようです。薬を飲むのを1日おきにすれば、副作用(吐き気や便秘、下痢といった消化器症状)が軽くなるメリットもあります。

ただ、1日おきだと、どうしても薬を飲み忘れてしまいやすくなるので、ご本人の性格や生活リズムによっては、毎日飲むことにしてもよいでしょう。また、重度の鉄欠乏や貧血がある場合は、投与量を増やす必要があるので、毎日飲むことになります。

鉄欠乏の原因も調べておこう

鉄欠乏になる根本的な原因を解決しないと、治療を止めたらまた再発してしまいます。

いちばん多い原因は、出血によって鉄が失われていることです。月経のある女性では、鉄欠乏が重症なら、ホルモン剤による月経のコントロールも考えます。男性や、閉経後の女性では、胃や腸からの出血がないかに注意します。鉄欠乏が重症だったり、治療を止めると鉄欠乏が再発してしまったりするようなら、胃潰瘍や、胃がん、大腸がんといった病気が隠れているかもしれませんので、内視鏡検査(胃カメラや大腸ファイバー)をおすすめする場合があります。また、NSAIDsという痛み止めを飲んでいる場合も、胃が荒れて出血しやすくなっている可能性があります。

食事から十分な鉄が摂取できているか、食生活についても見直しておきましょう。

Q&Aコーナー

Q:食事から鉄を摂るためには、どんなことに気をつけたらよいでしょうか?

A:鉄欠乏の予防には、食事から、十分な鉄を摂取することが大切です。鉄を多く含む食材といえば、赤身の肉やレバーが思い浮かびます。小松菜やほうれん草、豆類も鉄を多く含んでいます。
 肉類に含まれる鉄は、ヘム鉄という種類で、腸からの吸収効率が高いです。野菜や豆類に含まれる鉄は非ヘム鉄で、吸収効率は若干下がります。菜食主義の方は、鉄欠乏の危険が高くなります。お茶の飲み過ぎも、鉄欠乏の危険があります。お茶に含まれるタンニンにより非ヘム鉄の吸収が抑えられてしまうからです。また、鉄を効率よく吸収するには胃酸が必要です。胃酸の分泌を抑える胃薬(PPIや、ガスターなどのH2ブロッカー)を飲んでいると、鉄欠乏の危険が高まります。胃薬の量が多いほど、そして飲んでいる期間が長いほど、鉄欠乏の危険は高くなります。
 なお、鉄の必要摂取量は、性別や年齢によって異なります。成人男性で1日あたり7.5 mgと言われています。女性では、月経の出血で鉄が失われるため、1日あたり10.5 mgになります。妊娠中や授乳中の女性はさらに多くの鉄を摂取する必要があります。

Q:鉄剤の飲み薬にはどんなものがありますか?

A:よく使われるのは、フェロミア 50 mg錠という錠剤で、1日100~200 mg を1日1~2に分けて飲みます。副作用としては、便が黒色になることと、吐き気・便秘・下痢などの消化器症状があります。消化器症状は1割くらいの患者さんにみられます。消化器症状が強くて薬を続けるのが難しい場合は、薬を飲むのを1日おきにするのも一つの方法です。また、徐放剤(鉄が少しずつ放出されるように工夫された薬)を使うと、吐き気などの副作用が起きにくくなります。ただ、徐放剤だと、鉄欠乏の改善効果は下がってしまいます。

Q:鉄剤の注射薬はどんなときに使うのですか?

A:鉄欠乏は、ほとんどの場合、鉄剤の飲み薬で治療できます。内服の鉄剤では効果がないとき、あるいは心不全などの基礎疾患があって早急に鉄欠乏を改善させる必要があるときに、鉄剤の注射薬を使うことがあります。日本で使えるのは、フェジンという薬だけです。

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