心疾患の子どもはジェットコースターに乗って良いのですか?

 遊園地のジェットコースター乗り場には、高血圧や心臓病を持つ人、妊婦や高齢者は、利用を遠慮するようにという注意書きが掲示してあります。ジェットコースターなどの絶叫マシンは、どんな人にでも脳に衝撃を与える可能性があります。また、心臓に対しては、運動をしたときと同じような負担がかかります。心疾患の子どもが、ジェットコースターに乗ることを禁止するほどの根拠はありませんが、お子さんの体調をみて、無理はしないようにしてください。

 以下、ジェットコースターが人体に与える影響を少し詳しく説明します。

ジェットコースターで脳が受ける衝撃はヘディングと同じ

 ジェットコースターに乗ると、急な加速と減速で頭が揺さぶられ、脳が頭蓋骨の中で2~3 mm程度動きます。この衝撃は、サッカーのヘディングと同程度1)とか、枕投げ (!) と同程度2)という研究があり、多くの人は後遺症を残すようなけがをすることもなく絶叫マシンを楽しめるわけです。

1) J Neurotrauma 2017;34:3198, 2) Am J Forensic Med Pathol 2009;30:339

どんな人にも絶叫マシンで脳障害を起こす危険がある

 どのくらいの衝撃に耐えられるかは、個人差がありますので、全ての人にとって安全と言えるような基準は存在しません。絶叫マシンが原因で病気になってしまうこともあります。医学論文を検索すると、脳梗塞3)や脳出血4,5)、眼の硝子体や網膜の出血6,7)の報告が少なからず見つけられます。これは急な加速と減速や回転により、脳の血管が引っ張られたり変形したりして、血管が切れて出血したり、血管の内側の壁が裂けて(内膜解離といいます)脳に血液が送れなくなるためだと考えられています。勢いよく首が前や後ろに曲がることで、脳に行く血管が首を通る部分でダメージを受けることもあるようです。脳梗塞や脳出血は一般的にはお年寄りの病気ですが、それまで元気だった10代の若者や、4歳の子どもが、絶叫マシンに乗った後に脳梗塞や脳出血を起こしたという例もあります。

 浦安にある大学病院のお医者さんが、某アミューズメントパーク(きっとネズミの国でしょうね)のアトラクションが原因と考えられる脳梗塞を1年半の間に3例(全員が大人でした)診療したと論文報告しています8)。そのアミューズメントパークの年間入場者数がのべ3000万人近いことを考えると、そう滅多には起こらないとは思います。

 先天性心疾患があるかどうかにかかわらず、どんな人にも、頻度は高くないですが、絶叫マシンに乗って脳障害を起こしてしまう危険があると言えるでしょう。

 また、血圧が高かったり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病を持っている患者さんは、一般的に、脳梗塞や脳出血のリスクが高いですので、絶叫マシンは避けた方がよいでしょう。

3) Pediatr Neurol 2015;52:349, 4) Eur J Paediatr Neurol 2006;10:194, 5) Pediatr Emerg Care 2019;35:e76
6) Ophthalmol Ther 2018;7:191, 7) Retin Cases Brief Rep 2016;10:259, 8) J Stroke Carebrovasc Dis 2014;10:e467

絶叫マシンと心臓病の関連については、データがほとんどない

 55人の大人に心電図を装着させてジェットコースターに乗ってもらった研究9)では、乗っている間は最大で 155回/分まで心拍数が増加し、また血圧も乗る前の127 mmHgから降りた直後は146 mmHgまで上がっていました。治療の必要がない程度の軽い不整脈は4割くらいの人でみられたようです。ジェットコースターに乗ると、ある程度の運動をしたときと同じような負担が心臓にかかることは間違いないでしょう。ただ、これが直接、心臓病に結びつくわけではありません。

 いろいろな論文をあたってみましたが、先天性心疾患を持つお子さんが絶叫マシンに乗るのを禁止すべきだと言えるほどの根拠は、現時点では見当たりませんでした。逆に、このくらいの病状なら安全といえるような基準もないです。

  お子さんひとりひとりの病状にあわせて考えることが重要で、不安がある方は主治医に相談するのがよいでしょう。例えば、先天性心疾患の手術後の患者さんで、不整脈がある方は、運動負荷心電図検査をすると参考になるかもしれません。運動時に不整脈がかえって悪化する場合は、絶叫マシンは避けるべきといえます。

9) JAMA 2007;298:739

 一番大事なのは、無理をしないことです。何日も前から計画して、休みを取って遊園地に来ると、少しでも多くのアトラクションに乗りたくなるものですが、疲れてしまうと体調も崩しやすいです。
 みんなで楽しく休日を過ごせたという記憶こそが、子どもの心に長く残る思い出になるのではないでしょうか。

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