血液検査で「卵アレルギー」と分かったら、どうすればよいのでしょうか?卵アレルギーは子どもの食物アレルギーで最も多いものです。1歳になるまでに発症することが多いですが、3歳くらいになると半分くらいの子どもは卵アレルギーが治ります。年齢とともに卵アレルギーが良くなるのは、成長するにつれて、腸の消化機能が発達するためです。
卵アレルギーは卵の白身が原因になる
食物アレルギーの中でも最も多いが卵アレルギーです。卵の黄身がアレルギーを起こすことはほとんどなく、アレルギーの原因になるのは卵の白身(卵白)の部分です。
アレルギーの血液検査では、卵白の特異的IgE抗体を測定します。これは、卵白にくっ付いて、異常な免疫反応を起こしてしまうIgE抗体が血液中にどのくらいあるかを調べる検査です。特異的IgE抗体の量によって、クラス0(検出されない)からクラス6(100 U/mL以上)の7段階に分けられ、クラス2以上を「陽性」としています。
卵白の特異的IgEがクラス2でも、卵を食べられるかもしれない
卵白の特異的IgEが、クラス2の陽性であっても、実際に加熱した卵を食べてアレルギーを起こすのは、2~3割に過ぎません(1~3)。7割くらいの子どもは加熱した卵ならば安全に食べられるのです。アレルギーの血液検査だけに基づいて、卵を完全に食事から除去するのは不適切で、実際に少量食べさせてみて本当にアレルギーを起こすかどうかみてみる必要があります。特に離乳食期の赤ちゃんなら、実際に食べてもアレルギーを起こさなければ、少しずつ卵を食べさせた方が良いです。離乳食で全く卵を食べさせないと、かえって卵アレルギーになりやすいことが分かっているからです(4)。
(1) J Allergy Clin Immunol 2012;129:1681, (2)Allergology International 2017;66:296
(3) Allergy 206;71:1435, (4) J Allergy Clin Immunol 2010;126:807
食物アレルギーの治療=「制限は必要最小限に」そして「目標は食べられるようになること」
卵が食べられないと、加工食品を食べたり、外食する際に、かなりの制限がかかってしまいます。食物アレルギーの治療にあたっては、制限は必要最小限にし、最終的には安心して卵を食べられるようにするのが目標です。
赤ちゃんの場合、血液検査で卵白の特異的IgEが検出されたら、実際に卵を食べさせて症状が出るかどうか調べます。症状が出なければ、卵を少しずつ卵を食べさせましょう。少量でも症状が出てしまう場合は、卵を完全に制限し、幼児期になって腸の消化機能が成熟するのを待って、また試してみることになります。
幼児期以降になっても、少量の卵でアレルギーが起きる重症のお子さんには、経口免疫療法という治療があります。アレルギーを起こさないで食べられる食べられる範囲内で卵を食べてもらい、体が慣れていく(耐性を獲得する)ことで、徐々に食べる量を増やす治療法です。ただ、経口免疫療法は標準治療として確立されておらず、行える病院は限られます。経口免疫療法を長期にわたって行っても、完全な耐性の獲得まで到達しないこともあります。治療を中断すると、予期せぬ強いアレルギー反応が出ることもあります。
Q&Aコーナー
Q:卵の調理法によって、アレルギーの起こりやすさが変わりますか?
A:一番アレルギーを起こしやすいのは生卵です。加熱するとアレルギーは起こしにくくなります。さらに、スクランブルドエッグだとアレルギーを起こすけれども、ゆで卵なら食べられる場合があります。
まず加熱した卵に比べ、生卵はかなりアレルギーを起こしやすいです。卵白の特異的IgEがクラス2の場合、加熱した卵でアレルギーを起こす子どもは3割くらいですが、生卵だと8割近くになります。当たり前ですが、離乳食では、卵は良く加熱するようにしましょう。
卵白の成分でアレルギーの原因になるのは、主に、オボアルブミン(約5割)とオボムコイド(約1割)の2種類のタンパク質です。加熱するとオボアルブミンは固まってしまい、アレルギーをかなり起こしにくくなります。一方で、オボムコイドは加熱しても固まりません。オボアルブミンがアレルギーの原因なら、ゆで卵にすればオボアルブミンはほとんどが固まってしまいますので、食べてもアレルギーを起こさない可能性が高いです。
Q:卵白の特異的IgEが陽性でしたが、オボムコイドの特異的IgEは検出されなかったと言われました。何が違うのですか?
A:卵白の成分でアレルギーの原因になるのは、主にオボアルブミンとオボムコイドです。アレルギーの血液検査では、卵白全体の特異的IgEだけでなく、オボムコイドの特異的IgEも調べることができます。卵白の特異的IgEが検出されても、オボムコイドの特異的IgEがなければ、アレルギーの原因になっているのはオボアルブミンだけである可能性が高いといえます。この場合、加熱すればオボアルブミンは固まってアレルギーを起こしにくくなりますので、ゆで卵であれば食べてよいことが分かります。逆に、オボムコイド特異的IgEがかなり高値(クラス4以上)だと、卵アレルギーの症状がかなりの確率で出ますので、血液検査の結果だけで卵を制限します。アレルギーの血液検査の解釈は複雑なので、自己判断せず、医師の説明をよく聞いてください。
Q:血液検査で「卵アレルギー」の可能性がある場合、実際にどうやって食べさせてみればよいのですか?
A:「経口負荷試験」を行って、本当に卵を食べるとアレルギーの症状が出るのかを調べます。どのくらいの量を食べるとアレルギーが起きるのかを知ることで、安全に食べられる量も決めることができます。
経口負荷試験では、沸騰してから15分以上ゆでた卵の卵白を使います。0.1 g, 0.2 g, 0.5 g, 1 g, 2 g, 5 gと段階的に食べさせて、症状が出ない限界の量を調べます。過去の症状から、食べられそうな量が分かっている場合は、その量を2〜3回に分割して30分間隔くらいで食べさせる方法もあります。
安全に食べられる量が決まれば、その量の範囲で食べさせましょう。卵の完全除去が不要になれば、食事の幅が広がります。何より、誤って少量の卵を口にしてしまっても大丈夫だと分かるだけでも、親御さんの安心につながります。
大切なのは、毎日食べさせることと、食べた量をしっかりと記録することです。食べない日がしばらく続くと、せっかく体が慣れてきたのが元に戻ってしまい、また少量から食べさせる必要があります。また疲れている時や寝不足の時など、体調によってはアレルギー症状が出やすくなるので、このあたりも医師と相談して食べさせる量を決めましょう。
ちなみに、ゆで卵1個あたり、卵白は30~40 gあります(M~Lサイズの卵の場合)。また、卵黄はアレルギーを起こしにくく、卵白が1 g食べられれば、ゆで卵の卵黄1個は問題なく食べられます。
Q:卵アレルギーがあっても、インフルエンザの予防接種はできますか?
A:国内のインフルエンザワクチンに含まれる鶏卵成分は数ナノグラム/mL と、極めて微量(1ナノグラムは1グラムの10億分の1)です。ほとんどの場合、安全に予防接種をすることができます。