子どもの胸痛

 胸が痛い、といって病院に来るお子さんは珍しくありません。「胸が締め付けられる感じがする」、「心臓をぎゅっとつかまれたみたいな痛み」、「胸がチクチクする」など、痛みの表現はいろいろあります。親御さんの多くが、胸痛は心臓の病気のサインかもしれないと心配して、病院にいらっしゃいます。

子どもの胸痛が、急を要する病気であることは、ほとんどない

 一般に、胸痛と聞くと、狭心症や心筋梗塞といった心臓の病気を思い浮かべる人が多いでしょう。中年以降の大人ではまさにその通りで、心筋に酸素と栄養を送る冠動脈が動脈硬化で詰まると、心臓の動きが悪くなったり、最悪の場合は心臓が止まってしまう「虚血性心疾患」という病気になります。その最初の症状として胸痛が多いのです。

 しかし、子どもでは、虚血性心疾患はめったに起こりません。子どもの胸痛の原因となる他の心臓病としては、心膜炎や心筋炎、大動脈解離があります。肺の病気としては、自然気胸や肺塞栓症があります。これらの病気は、急性に発症し、胸痛以外にも様々な症状がみられます。頻度も低く、胸痛をきっかけに病院を受診した子どものうち、治療が必要な心臓や肺の病気が見つかるのは、数%以下です。

 慢性に続く胸痛(例えば数ヶ月前から、ときどき胸が痛むことがある、というような場合)で、胸痛以外の症状がない(例えば胸痛が起きても数分でおさまり、その後は普通に過ごせる、と言うような場合)のであれば、その胸痛が治療の必要な心臓や肺の病気である可能性は非常に低いのです。

レントゲン、心電図、心エコー検査で、心臓や肺の病気がないことを確かめる

 胸痛で病院にきた子どもに対して行うべきことは、心臓や肺の病気がないことを確かめることです。まず問診でどんなときに胸痛が起きるか、どんな痛みか、どのくらい続くか、などを確認します。胸痛以外の症状がないかも重要なポイントです。診察では、呼吸音や心音の異常、心雑音がないか調べます。その上で、レントゲン、心電図、心エコー検査を行います。

 治療を要する病気であれば、ここまでの診察と検査で、異常がみつかるはずです。例えば、虚血性心疾患であれば、心電図の異常や、心エコー検査で冠動脈の形態異常が見つかるでしょう。心膜炎や心筋炎も同様で、心電図の異常がでますし、心エコー検査では心臓の周りに水(心嚢液)がたまったり、心臓の動きが悪くなったりします。

問題ないと分かったら…

 診察と検査の結果、心臓や肺の病気ではないことが分かれば、胸痛については心配しなくてよいものであると言えます。治療のいらない胸痛の原因として、肋軟骨の軽い炎症(肋軟骨炎)や、下位肋骨の結合が弱くなって神経を刺激する状態(肋骨こすり症候群)などがありますが、正直なところ、原因を特定するのは難しいのが現実です。

 検査の結果、心配しなくてもよい痛みだと分かったので安心してよいことを、お子さんに説明します。胸痛の感じ方は、心理的な要素でも変わってきますので、子どもが安心できるようにすることが大切です。疑問点は解消するまで質問してください。再び胸痛が起きたら、病院で検査して異常がなかったことを思い出し、痛みが落ち着くのを待ちましょう。もちろん、今までとは強さや感じ方が違う痛みであれば、いつでも相談してください。

Q&Aコーナー

Q:胸痛に対して血液検査は必要ですか?

A:胸痛のある子ども全員に血液検査を行う必要はありません。胸痛に対して良く行われる血液検査項目に、「BNP」と、「心筋障害マーカ」があります。
 「BNP」は、心臓に負荷がかかると増えてくるホルモンの一種です。呼吸不全のある患者さんが救急外来に来たときなどに、その原因が心臓なのか肺なのかを区別するのに役立ちますが、胸痛のある子どもの多くが治療を必要としない軽微な病態であることを考えると、一律に検査を行うのは適切ではないでしょう。
 「心筋障害マーカ」とは、傷害を受けた心筋から漏れてくるCKや心筋トロポニンといった物質のことです。特に心筋トロポニンは、心筋梗塞が起きてから2時間くらいで増加してきますので、心筋梗塞の診断の手がかりとしてよく使われます。しかし、感染症や脱水などでも、心筋トロポニンが検出されることがありますので、検査結果の判断には注意が必要です。慢性の胸痛で、それ以外の症状が乏しい場合に、心筋障害マーカを計測するのは、やはり適切ではないでしょう。

Q:以前に川崎病にかかったことがあるので、虚血性心疾患が心配ですが……

A:川崎病の冠動脈後遺症は、発症から1ヶ月くらいで出現します。川崎病にかかったあと、何ヶ月間が定期的に心エコー検査を受け、冠動脈後遺症がないと分かっていれば、まず問題はありません。
 川崎病は、0~5歳児にみられる病気で、発熱に加えて、目やくちびるの発赤、手足の腫れ、皮膚の発疹など特徴的な症状がみられます。何らかのウイルス感染をきっかけとして、免疫機構が血管を攻撃してしまうことが原因と考えられています。後遺症として、冠動脈がせまくなったりこぶ状にふくらんだりすることがあります。こぶ状にふくらみと、そこで血液の流れが悪くなって血のかたまりができやすくなり、冠動脈がつまってしまうことがあります。
 川崎病の冠動脈後遺症は、遅くとも発症後3ヶ月までには出現しますので、その時点で異常がなければ、後になって冠動脈病変が出てくる可能性は非常に低いです。胸痛で病院を受診する際、川崎病にかかったことがあれば、そのことをお医者さんに伝えて下さい。心電図や心エコー検査をするときに、特に注意して冠動脈に異常がないかを確認します。
 川崎病の詳しい解説記事もごらん下さい。

Q:子どもの虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の原因にはどのような病気がありますか?

A:川崎病の冠動脈後遺症の他に、先天的な冠動脈の奇形(左冠動脈肺動脈起始症や冠動脈壁内走行)、家族性高コレステロール血症、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスや抗リン脂質抗体症候群)があります。いずれも珍しい病気ですが、命に関わるので、注意して診察・検査をします。先天的な冠動脈の奇形は、心エコー検査で疑うことができます。家族性高コレステロール血症や自己免疫疾患も、全身の診察で手がかりをつかむことができます。

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