狭心症の治療

 動脈硬化により冠動脈がせまくなると、力仕事や運動をしたときに心筋に送られる酸素が足りなくなります。これが狭心症という病気です。胸が重苦しく、しめ付けられるような不快感を感じるという症状が発作的に出ます。

 狭心症の治療は、目標に応じて、(1) 狭心症の発作が起きたときの症状を止める、(2) 狭心症の発作を予防する、(3) 動脈硬化が進行して急性冠症候群(心筋梗塞)になるのを防ぐ、(4) せまくなった冠動脈を広げる、の4つに分けて考えます。

狭心症の発作が起きたら、ニトログリセリンで症状を止める

 力仕事や運動をしているときに狭心症の症状が起きたら、すぐに安静にします。その上で、血管拡張薬であるニトログリセリンを使って症状を止めます。ニトログリセリンは舌下錠といって、舌の下にいれると溶け、粘膜から吸収されます。効果は数分であらわれますが、効かない場合はもう一錠追加できます。

狭心症の発作予防に、ベータ遮断薬かカルシウム拮抗薬を使う

 狭心症の発作予防には、ベータ遮断薬を使います。ベータ遮断薬は、アドレナリンの働きをブロックして、心臓が頑張りすぎないようにする効果があります。つまり、心拍数が増えすぎたり、心臓の収縮力が強くなりすぎるのを抑え、心筋が必要とする酸素量を減らすことで、狭心症の発作を予防します。

 カルシウム拮抗薬にも同様の効果があります。異型狭心症といって、運動時に限らず症状が出る場合には、カルシウム拮抗薬の方が効果が高いです。また安定狭心症でも、ベータ遮断薬だけでは効果が不十分な場合に、追加で用います。

抗血小板薬で血栓をできにくくして、急性冠症候群を防ぐ

 動脈硬化が進行すると、突然、冠動脈の血管壁にあるプラーク(脂肪や白血球の残骸のかたまり)が破れ、そのまわりに血のかたまり(血栓)ができて、完全に冠動脈がつまってしまう「急性冠症候群(心筋梗塞)」を起こします。狭心症の患者さんでは、急性冠症候群を起こす危険を減らすのも大切な治療になります。

 動脈硬化の進行には、LDLコレステロールが関与します。また、血栓ができて冠動脈がつまってしまうことが、急性冠症候群につながります。そこで、狭心症の患者さんには、コレステロール値を下げるスタチンと、血栓をできにくくする抗血小板薬(アスピリン)を飲んでもらうことになります。さらに、血圧を下げて臓器を守る作用のあるACE阻害薬(もしくはARB)も飲むことがすすめられます。

 なお、狭心症と、急性冠症候群をあわせて「虚血性心疾患」と呼びます。

カテーテル治療でせまくなった冠動脈を広げる

 狭心症の原因は、冠動脈がせまくなって、心筋に供給される血液が減ってしまうことです。風船つきのカテーテルでせまいところをふくらませるか、ステントという金属でできた網状の筒をせまいところに留置すれば、狭心症は起こさなくなります。しかし、冠動脈の他の部分にも動脈硬化がおきているので、せまいのが目立つ所だけ広げても、根本的な解決にはならず、いずれにしても薬による治療が不可欠です。さらに、ステントを留置してもその内側が再びせまくなってきたり、血栓ができることもあります。カテーテル治療は素晴らしい治療法ではありますが、万能というわけではありません。

 バイパス手術は、冠動脈のせまい場所よりも先に、別の血管を縫い付けて血流を確保します。冠動脈の本幹に病変がある場合や、冠動脈の主要な3本の枝全てに病変がある場合は、カテーテル治療は不可能であり、バイパス手術を選びます。

 一般的には、安定狭心症の多くの患者さんは薬の治療でうまく管理できます。十分な薬を投与しても症状がとれない場合や、副作用が重いときに、カテーテル治療やバイパス手術による血行再建術を考えることになります。

Q&Aコーナー

Q:ニトログリセリンは、狭心症発作の予防には使えないのですか?

A:ニトログリセリンは、効果の持続時間が短いので、普段の予防には使えません。同系統の硝酸薬で作用時間を長くした、硝酸イソソルビド徐放剤があり、飲み薬のほか、貼り薬(テープ)も使えます。ベータ遮断薬とカルシウム拮抗薬を使っても、発作が完全に予防できない場合に、硝酸イソソルビド徐放剤を使ってみる価値はあります。
 ただし、硝酸薬は、長い間使っていると、効果が弱くなってしまうという問題点があります。そのため、発作の起きにくい夜間には硝酸薬が体にない状態を作った方がよいです。貼り薬なら、朝に貼って、寝る前に剥がしましょう。

Q:ベータ遮断薬が使えないのはどんな場合ですか?

A:ベータ遮断薬は、喘息を起こす危険があります。喘息を持っていたり、肺気腫などの閉塞性肺疾患の患者さんに使うときは注意が必要です。また、ベータ遮断薬は、心臓が頑張りすぎるのを抑えるので、そもそも心臓の動きが悪い患者さんには使えません。心拍数を抑える効果があるので、徐脈性不整脈(脈が遅くなるタイプの不整脈)の患者さんにも使えません。

Q:抗血小板薬はアスピリン1種類だけでよいのですか?

A:安定狭心症であれば、アスピリン1種類で問題ありません。冠動脈の病変部にステントを留置した場合は、アスピリンに加えて、別系統の抗血小板薬(プラビックスなど)も併用します。併用期間は6ヶ月で、その後はどちらか1種類だけにして続けることが一般的です。出血の危険が高ければ、2剤併用の期間は3ヶ月に短縮します。逆に急性冠症候群の後など、心筋虚血を繰り返す危険が高ければ、2剤併用の期間を1年までにのばします。
 心房細動がある場合は、抗凝固薬(ワーファリンまたはDOAC)も併用します。ただ、出血の副作用が増えますので、患者さんごとに考えます。抗凝固薬は少なめにすることもあります。

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